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G-2 「伍如田監督の次回案 -全年齢版-」


煙草の灰が落ちたのも気にせず、伍如田はパソコンのフォルダを開く。そこには映像ファイルが三つ並んでいた。そのうちの一つをクリックする。

画面が切り替わり、モニターいっぱいに広がったのは、彼が撮りためてきた自主映画の断片。サイドテーブルからのアングルで、ベッドに横たわる人物を映したワンシーン。光の落ち方が妙に美しく、ただ眠っているだけの姿なのに、画面全体に緊張感が走っていた。


伍如田は自らが演者として画面に現れることも多い。役者を雇う余裕がないからだ。スマホで角度を確認しながら、構図を崩さぬよう身振りを整える。筋肉の衰えや腹の揺れが気になるが、「逆にこれがリアリティだ」と自分を納得させる。

映像に求めるのは、美や整合性ではない。生々しさ、即物的な迫力。観客の記憶に焼き付く一瞬。それさえあればいい。


彼は編集ソフトを立ち上げる。ジュンコに頼み込んで買ってもらった高級品で、プロも使うツールだ。カットを繋ぎ直し、角度を切り替え、同じ場面を何度も見返す。構成を変えるたびに効果が生まれ、作品が少しずつ輪郭を得ていく。この作業こそが伍如田の至福だった。


顔や名前が分かる部分には加工をかけ、余計な音声はカットする。シンプルなタイトルをつけ、収益の夢を見る。借金の返済が迫っているのだ。

彼の映像は時に物議を醸した。過激だ、奇妙だ、と叩く者もいれば、強烈に支持する者もいる。通報まがいのコメントに舌打ちしつつも、ランキング上位に食い込んだ事実に伍如田は満足した。

「売れる」と確信できた瞬間だった。


 ──では次は何を撮るか。

「エロい女を探すか? いや、育てていくのもいい」

そんな独り言を吐きつつ、彼は灰を落とし、次の煙草に火を点ける。

その時、ふとひらめいた。

「夢から始めるのはどうだろう……」


彼の目の前にあるのはDDAという装置。ユーザーが見た夢を記録・交換できる機械だ。本来は娯楽やセラピーのための道具に過ぎない。だが伍如田は裏技めいた方法を知っていた。

夢の雰囲気を他者のログから取り込み、全く異なるシナリオに書き換えることができる。膨大な夢の断片がネット上に漂っている。それらを組み合わせれば、現実では撮れない映像を「夢」として再現できるのではないか。


「そうだ……純粋で何も知らない人物を、夢の中で少しずつ変えていく。現実と虚構の境が曖昧になる瞬間を、作品として仕上げる。これは面白い」

伍如田は思考を加速させる。どの断片を組み合わせるか、どの映像美を目指すか。シナリオの骨格はすでに頭に浮かんでいた。


明日は同じ時間帯にシフトが入っている。素材を集める絶好の機会だ。

彼は胸を高鳴らせながら、次の一手を考え続ける。


夜はまだ長い。

眠りにつくのは、きっと今日も遅くなるだろう。


次は「F-3」。全年齢版をアップし、通常版はミッドナイトへ。

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