『八月の通学路』
ご覧いただきありがとうございます。
この作品は、真夏の通学路を舞台にしたホラー短編です。
誰もいないはずの道で“誰か”とすれ違ったとき、あなたは振り返る勇気がありますか?
涼を求めて読んでいただければ幸いです。
八月の終わり。
蝉の声がやかましい夕暮れ時、僕は部活帰りの通学路を歩いていた。
照り返しの熱にふらふらしながらも、心の中は軽かった。
明日から二学期。クラスで好きな子に会える。そんな他愛ないことを考えていた。
……そのはずだった。
踏切の前に差しかかったとき、ふと背筋に冷たいものが走った。
線路の向こう、夕焼けを背に、ひとりの女の子が立っていたのだ。
制服は、僕の学校のもの。
でも見覚えがない。
髪は濡れたように重く、顔は影になってよく見えなかった。
「……こんばんは」
思わず声をかけた。
すると、女の子は無言のまま、ゆっくりと首を傾けた。
ぎこちなく、まるで首の骨が折れているかのように。
次の瞬間、警報音が鳴り響いた。
遮断機が降り、電車が迫ってくる。
僕は慌てて目を閉じた。
轟音と共に電車が通り過ぎ――
目を開けると、そこには誰もいなかった。
息を呑んだ。
だが、地面には確かに濡れた足跡が残っていた。
線路からこちらへ、僕のすぐ目の前まで。
慌てて走って家に帰ると、母が言った。
「レン、また通学路で立ち止まってたでしょ? あそこは行っちゃダメって言ったのに」
「え、なんで?」
母は少し黙ってから答えた。
「去年の夏、あの踏切でね、女の子が電車に……」
僕の鼓動が止まりかけた。
耳の奥で、さっきの警報音がまだ鳴り響いている気がした。
その夜、眠れずに布団に潜り込んでいると――
窓の外から、じっと僕を見つめる気配がした。
覗き込む勇気なんてなかった。
ただ耳を塞いで震えていた。
……翌朝。
窓を開けると、ベランダの床に濡れた足跡がいくつも並んでいた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
夏の帰り道は、昼間の喧騒とは違う寂しさがあります。
人通りがなく、夕立の湿った匂いだけが漂う道を歩くと、ふと背後に気配を感じることはありませんか?
本作『八月の通学路』は、「自分自身とすれ違ったらどうなるか」という発想から生まれました。
どうか夜の帰り道では、後ろを振り返らないように……。




