5-18
ひとしきり笑ったあと、ようやく落ち着いたのか蓮はひとつ息を吐いて、空を見上げた。一緒になって笑っていた私も、自然と視線が空に向かう。澄んだ月が煌々と輝いている。
ちらりと蓮へ視線を戻すと、彼も真っ直ぐに月を見つめていた。その横顔から笑顔はもう消えていたけれど、どこか清々しさが感じられる。私の胸はじんとした温かさで満たされた。私はただ黙って推しの横顔を見つめる。成瀬さんも同じように蓮を見ていた。その表情には親友が落ち着きを取り戻したことへの安堵が滲んでいた。
そんな私たちの視線には気が付いていないのか、蓮は夜空に向かってぽつりと呟くように言葉を落とした。
「だけど、どうすっかなぁ……」
蓮の呟きに私は首を傾げる。成瀬さんも不思議そうに問う。
「どうするって、何が?」
「これからだよ。もうビビらないって開き直ったけど、今後どうなっていくべきか、やっぱりそれは考えなきゃいけないと思うんだ」
蓮は前を向くと決めたようだ。私はその選択を尊重したい。それがどんな結果になろうとも。
「蓮はどうなりたいの?」
私の問いに蓮はしばらくの間考え込んだ。そして、ゆっくりと口を開く。
「……やっぱり今はまだ何もわからない。Scorpioじゃなくなった後の自分がわからない」
彼は真っ直ぐに前を見据えていた。その目には強い意志が宿っているように見える。蓮は一言一言はっきりと口にした。
「でもそれは、さっきみたいな後ろ向きな意味じゃなくてさ、俺は俺のことを知らなさすぎる。もっとしっかり自分と向き合って、やりたいこと、なりたい自分を探すしかないなぁ」
蓮は軽く言うけれど、それが案外難しい。でも、蓮ならきっと大丈夫。目標を見据え、それに向かってひたむきに努力することを惜しまない人だから。
蓮の静かな決意に成瀬さんが優しく相槌を打つ。
「うん、いいんじゃない? 俺も色々折り合いつけるのには時間かかったよ」
成瀬さんはそう言って蓮の肩に手を置いた。そして、私へ視線を向ける。
「まぁ、どんなお前になったって、しっかりと見ていてくれる人がいる。それさえわかっていれば、大丈夫だ。良かったな石川さんがお前のファンで」
そう言って成瀬さんはニカリと笑った。
その笑顔が少し苦しそうで、なんだか気にかかった。不思議に思って彼を見ていると、視線に気がついたらしい成瀬さんと目が合う。彼は一瞬だけ困ったような表情を浮かべたが、すぐにまた笑顔を浮かべて口を開いた。