この優しさ、現実ですか?(4)
そんなことを考えている間に、駆けて行った彼が笑顔で戻ってきた。手にコンビニの袋を持っている。一体、何を買ってきたのか。
「良かった。ちゃんと居てくれた」
笑顔でそう言いながら、彼はコンビニの袋の中から何かを取り出した。それはハンカチだった。柄も何も無い薄い水色のハンカチ。そのハンカチを彼は私に向かって差し出した。
「はい」
「え?」
「このハンカチ使ってください」
差し出されたそれを思わず受け取ってしまった。どこか汚れていただろうか。慌てて確認する。しかし、どこも汚れてなどいない。
どういうことだ? このハンカチをどうしろと言うのだ?
意味が分からず、受け取ったばかりのハンカチを握りしめたまま、疑問符を顔に浮かべる。私が立ち尽くしていると、彼は困ったように頭を掻いた。それから、着いて来いとでも言うように手招きをした。その仕草があまりにも自然で、私はまるで催眠術にでもかかったかのように素直に彼に付き従った。
気がつけばコーヒーショップで二人席を陣取っていた。私は彼の笑顔からそっと視線を外すと、目の前のコーヒーのカップを引き寄せた。そしてそれを一口すする。
どうしてこうなった? いや、それは私自身が聞きたい。何故私は見知らぬ男性と一緒にコーヒーを飲んでいるのか。
よく分からない状況に半ば思考停止状態のまま、私は目の前に座る彼の姿を窺う。彼は相変わらずニコニコとしていた。すらりと伸びた手足に高い背丈。それでいて女性的な顔立ちと穏やかな雰囲気は、まさしく優男そのものだ。明るい髪色とは対照的に、ブラウンのフレームの眼鏡がそれをとても柔らかなものにしている。服装はパーカーにジーンズというラフな格好だが決してだらしなくは見えず、むしろお洒落に着こなしている。
対して私はと言えば、会社帰りのくたびれたスーツに壊れかけた鞄。化粧だって崩れかけている。とてもデートをするような服装じゃない。
そこまで考えてハッとする。そう、これは断じてデートなどではない。私は出会ったばかりの人を相手に、何を考えているのか。訳の分からない妄想を消し去ろうと、私は小さく頭を振った。
彼はそんな私を気にする様子もなく、コーヒーを楽しんでいる。
こちらから何か切り出した方がいいのだろうか? しかし、会ったばかりの人と何を話せば? 世間話? 会社と自宅の往復ばかりの私には、見ず知らずの人と楽しく会話を弾ませるような話題の引き出しなど持ち合わせていない。




