再会 ×(偶然)³ +きゅん= ゼロ距離って、合ってます?(10)
もしかしたら、本当は引いているだろうか。うんざりしているだろうか。
不安になった私は、隣に立つ成瀬さんをちらりと見上げた。彼は電車の到着予定を確認しているようだ。その横顔をそっと見つめる。そして、ふと思ったことを口にしていた。
「成瀬さんの推しの話も聞かせてください」
「え?」
成瀬さんは驚いたようにこちらを見て、ぱちぱちと数回瞬きをした。私は慌てて口を手で押さえる。
何言っちゃってるの? 私……。
「あ、ご、ごめんなさい。あの、忘れてください」
私は慌てて視線を逸らせると俯いた。
ああ……やっちゃったよ。私、何やってるんだろう。いくら自分の推しについてたくさん語って楽しかったからと言って、相手にも同じ事を強要するなんて。話したくないかもしれないのに……。成瀬さんはきっと呆れているに違いない。
そう思ったら恥ずかしくて顔を上げられなかった。でも、どうしてか成瀬さんの好きなものの話を聞きたいと思ってしまったのだ。
「……俺なんかの話が聞きたいんですか?」
少し間を置いて聞こえてきた声は、とても優しいものだった。
「もし、話したくないなら無理には……」
恐る恐る成瀬さんを見上げると彼は少し困ったような顔をしていた。
「いや、そういうわけじゃないんです。ただ、石川さんほど熱く語れるような推しという存在はいなくて」
成瀬さんは「困ったな」と呟いてから、私に視線を向けた。
「推しの話じゃなくてもいいですか?」
「ええ。もちろん」
私が頷くと成瀬さんはふわりと微笑んだ。
「わかりました。それじゃあ、石川さんは映画は好きですか?」
「え? あ、はい。好きですけど」
突然の話題転換に戸惑いながらも返事をすると、成瀬さんは嬉しそうな声を上げる。
「よかった。じゃあ、映画について話してもいいですか?」
電車がホームへと入ってきた。二人で電車に乗り込む。帰宅ラッシュはとうに過ぎた時間だから、座席は空いていた。並んで座ると、成瀬さんは映画について語り始めた。
好きな俳優や監督の話。面白いと思う作品や話題作などが次々と挙げられていく。私は思わず聞き入ってしまった。
成瀬さんの話は面白かった。話し方が上手いからなのか、彼の話に引き込まれる。そして何より、その話す声がとても心地よかった。
「俺、最近プロジェクター買ったんですよ。家でも映画館の気分を味わいたくて」
「それは、本格的に好きな人ですね」
少し茶化したように言うと、成瀬さんは照れ笑いを浮かべた。




