第4話 夢見る男に夢のオブジェの魔法を
魔界のテーマパーク その名も悪夢のデビルパーク。
魂が少し抜ける地獄のジェットコースター、亡者のメリーゴーランド、サキュバスのキス屋台……。
血と嘘と絶叫が入り混じる悪夢の園に、黒魔術師マーリンは一人の男とやって来ていた。
その名も炎の魔人ロマン・スゴ。
「俺さ、でっかい夢があるんだよ。テーマパークを超えるテーマ宇宙都市を作るの。
名前はもう決めてて、『スゴワールド・ネオ・インフィニティ』!」
マーリンはうなずきながら、目の奥で感情をシャットアウトしていた。
なぜなら、彼の話は30分前からずっと夢の話だったからだ。
「でさ、その街のシンボルは俺の銅像でさ。高さ300メートル! しかもしゃべるの!自己紹介付きで!」
(うるさい。現実に戻ってこい。)
「ちなみに資金があと5億ほど足りなくてさ。
マーリン、さ……俺に出資しない? 二人の夢、ってことで♡」
その瞬間、彼女の中で何かが「コキッ」と折れた。
「いいかげん夢をさましなさい、ロマンさん。
現実はシビアなの。」
ロマンはキョトンとした顔をする。デビルパークの夜が、妙に静かだった。
だが次の瞬間、氷の風が吹いた。
「聞け、かつて万象を封じた氷の女神の嘆き。
裁きの冷気は風に乗りて、千年の罪を凍てつかせた……」
マーリンの手元に、蒼白く輝く魔導書が開かれる。
デビルランドの空が青白く染まり、地鳴りが始まった。
「鎖よ現れよ、数多の魂を縛りし氷環となれ!
一振りの指先に、運命の楔を打ち込みたまえ……!」
ロマン・スゴが顔を青くする。
「ちょ、ま、ちょっと待って?オレまだ夢の途中で──」
「凍れ、叫べ、静まれ……
時のすべてを凍らせし、無限なる監獄にて眠れ……!」
マーリンが手を振り下ろすと同時に──
「万氷牢──《アークティカ・プリズン》!!」
地面が裂け、氷の鎖がロマン・スゴの足元から飛び出した!
「ぎゃあああ!? これ寒っ!? てかカッチカチじゃん!?」
叫ぶロマンをよそに、氷の結晶が全身を覆い、目、鼻、口、語り口調まで凍結する。
最後の一言。
「ユメノ……スゴ……ワールド……ネ……オ……ンフィ……ニティ……」
カチンッ。
そして次の瞬間
ロマン・スゴの全身は、氷のオブジェと化して、悪夢のメリーゴーランドの横に静かに鎮座していた。
「悪夢のテーマパークには、夢の氷のオブジェがよく似合うわね」
マーリンは静かに背を向けた。
冷たい風が通り過ぎ、彼女のマントを翻す。
そして去り際に、一言だけ言葉を残した。
「夢は寝て見るもの。
目を覚ませない人間は永遠に凍ってなさい」