第3話 イケメンだけど中身スカスカ男、幻影破りの呪文を唱えよ。
夕暮れの湖畔、グランピン村。
手軽にキャンプが楽しめる施設がある。
焚火の明かりが、マーリンの紫のローブをやわらかく照らしていた。
「今日はありがとう、マーリンちゃん♡」
現れたのは、ガンメンタカオ。
黄金比を叩き出す整った顔、完璧な肌、そしてキラキラの歯。
目を合わせればほとんどの女が一瞬でトリコになるが。
「ねぇ、火つけてくれる? オレ、そういうの苦手なんだよね。虫もムリ。煙もムリ。煙臭くなるのもムリ。あと地面に座るのもちょっと……」
(ムリばっかじゃない)
マーリンは内心でため息をつく。
しかもタカオは火も付けられず、マッチをへっぴり腰で落とす始末。
「キャンプって自然を楽しむものじゃないの?」
「え?いや、自然はSNSで見る派だから。俺が映ってればいいかなって。てか、俺ってかっこよくない?」
(うわ、出た。自分を“映え”に使う男)
マーリンは静かに焚火の火を起こしながら、タカオのつまらない自慢話を聞き流す。
「てかさ、俺ってさ、顔で生きてきたからさぁ〜。職場でも“顔だけで仕事してんの?”って言われるけど、まぁ実際そうだし?ぶっちゃけ、俺の顔が世界の財産って思ってる」
その瞬間だった。
マーリンの魔眼がピクッと揺れた。
「ガンメンタカオ……」
「え、なに急にフルネーム?照れるんだけど?」
マーリンは立ち上がり、杖を真っすぐ空に掲げた。
「顔だけで生きていけるのは、鏡の中だけよ。」
湖畔に重苦しい風が吹き抜ける。
「え、なになに?なんか雰囲気変わった?てか、写真撮る?いまの光めっちゃ映えそう」
その瞬間、マーリンの目が闇色に光った。
黒鏡の審判
「汝の罪を映せ、鏡よ……
バチンッ!!
焚火の火がシュンと音を立て、空中に舞い上がり、巨大な闇の鏡に飲まれた。
次の瞬間、それは巨大な漆黒の鏡へと姿を変える。
「え、なにこれ鏡?俺が映って」
鏡に映ったのは、美しいタカオの顔。だが
その裏にある空虚な中身まで透けていた。
「……うわ、なんかスカスカしてない?オレ?」
マーリンは一歩、前に出る。
「そうよ。あなたの中身は、自己愛と虚勢と、写真アプリのフィルターだけでできてるわ」
「な、なんでそんなこと言うの!?顔がイイ男は正義でしょ!?美は力でしょ!?」
「……力が欲しければ、自分で火くらい点けてから言いなさい」
「映し出せ、焼き尽くせ 偽りの仮面を剥がす黒き裁き、
黒鏡の審判”!!」!!」
黒鏡がタカオの顔面を中心に、じわじわと熱を帯びていく。
「ちょ、ちょっと待って!?オレの顔が……熱っ……え、熱ッッッ!!?」
ドォォォン!!!
「焼き尽くせ、虚像の偶像」
ズギャアアアアアアン!!!!
赤熱した炎がまっすぐタカオのドアップフェイスを直撃!!
「ぎゃああああああああ!?!?
俺の、俺の美男子の顔がぁぁぁぁぁ!!!」
髪の先からまつげの一本まで、きれいにセットされた造形美が、パリパリと音を立てて黒焦げになっていく。
マーリンは一歩近づき、静かに言った。
「中身がない男ほど、外見は燃えやすい。 ……勉強になったわね?」
タカオは倒れ込む。鏡に映る自分の顔を見たその目に、涙。
「オレの顔が、財産だったのに……」
マーリンは一度だけ振り返り、ひとことだけ残して去った。
「見た目の貯金は、火災保険の対象外よ」
そういうと
黒魔術師マーリンは、ほうきに跨りレアスキル浮遊で夜の湖畔を飛んで去っていった。