プロローグ 〜世界を救った独身女の孤独〜
世界を、救った。
悪魔王ガイアスを打ち倒し、魔王と和平協定を結び、長きにわたる人間と魔族の争いに終止符を打った。
そして私たち勇者一行は、それぞれの道へと散った。
村人リスクはシスターマリアと結婚。
「あの人、昔はただの村人だったのに……」などという少女時代の妄想が現実になった瞬間だ。
めでたい。お幸せに。二人の新居には転送魔法陣を置いてやった。ノックなしで突然現れてやる予定だ。
勇者は?というと
「俺は夢のハーレム実現するために女の子たちに囲まれて、第二の人生をエンジョイするぜ★」
そう言い残して、どこかへ消えた。
こっちもある意味、めでたい。
……で、私はというと。
独りぼっちになった。
302歳、独身。
黒魔術師を極めし者。
救世主なのに婚期を逃すという、まさかのスキル取得。
「え?マーリン様って魔族だったんですか?」
「302歳って。ちょっと……怖いです……」
「女なの?てっきり性別不明かと……」
余計なお世話だ、全員焼き払うぞ。
でも、本当は。
私だって、幸せになりたかった。
誰かと手をつないで、並んで歩いて、
どんな魔物より恐ろしい“日常”という名のダンジョンを、共に生き抜くような人生。
魔法じゃない奇跡が、あるなら。
そんな男、いるわけない。
でも何処かにいるかもしれない。
理想の男、ね。
そうね。たとえば、こんな人。
・黙っていても私の機嫌に気づく、鋭い感性。
・黒魔術の大爆発に引かない度胸と懐の深さ。
・器が大きく、でも自慢しない。
・美味しいワインの一本くらい、サラッと選べる品格。
・笑うとちょっと犬っぽくて、でも口下手で照れ屋。
・お店の店員に敬語が使えて、ゴミもちゃんと持ち帰る。
・ちょっとした傷にも気づいて「大丈夫?」って聞いてくれる優しさ。
・割り勘でもいい。でも1円単位まではやめて。
・話を聞く力があって、自分語りをしない。
・ついでに言えば、顔も私のタイプで、年収は安定していて、母親と適度な距離感があり
……あれ?
これってもう、まぼろしぃ~じゃない?
「……いい男なんて、いないのよ。どうせまたクズに引っかかるだけ」
そう言いながらも、私は放浪の旅に出る。
なぜなら
どこかで、誰かが私を待ってるような気がしたから。
待ってなかったら?
ふふ、そいつは地獄まで吹き飛ばすだけ。
私の黒魔法で。
こうして私は、再び杖を手に取った。
今度の旅は、世界を救うためじゃない。
私自身を救うための戦いだ。
名付けて
『風転爆撃のマーリン 〜いい男探して3000里〜』
世界一長くて辛口な婚活放浪記、今、ここに開幕。
幸せよ、待ってなさい。
この魅惑の黒魔術師マーリン様が、今、迎えに行くわ。
(※ただし相手がクズだった場合、迎える前に吹き飛ばします)