第6話 クズの中のクズ、美人の仲間に踏み潰される
塔の頂上からの眺めは圧巻だった。
均等に建てられたビルが、上から見ると1つの芸術作品みたいだ。
ちなみに、俺をぶっ飛ばした鳥人の少年は今、俺たちの後ろを大人しく歩いている。
「まさか、本当に勇者と魔王だったとは……我の見る目が狂っていたということか……」
変なポーズで顔を隠しながら、クククッと笑う少年。
「てかなんでついてきてんの?」
「いいではないか。我は3人と仲良くなりたいと思っている。それが間違っていることか?」
「さっきまで俺たちを愚民とか言ってたのに?」
「その通り。その節は本当にごめんなさい。許してください、お願いします」
反省してるっぽいし、許してやるか。
なんか面白そうな奴だしな。
スコットは終始笑顔で、生意気な少年を受け入れていた。さすがは元魔王。心の広さが尋常じゃない。
「君、名前は?」
「我はセルベリアを拠点として日々伝説を残し続けている孤高のバードマン、チムチムだ」
なんか可愛い名前だった。
「伝説って、どんな感じの?」
「サンドウィッチを片手で作ったり、ベーコンを両手で食べたりしている」
「そうなんだ、凄いね」
サンドウィッチを片手で作るなんて神業、俺にはできない。教科書とかあるのかな。
「今度やり方教えてよ。ランチ奢るから」
「ランチではなくブレックファストを奢ってくれ」
「オッケー」
どうして昼食じゃなくて朝食にこだわるのかはわからないけど、なんか特別な理由でもあるんだろう。気にしない。
「チムチム君、良かったらこの観光都市のガイドをしてくれないかな? 僕たち、ここ初めてで、どこが名所なのかとかよくわかってないんだ」
「いいだろう。我のガイドは世界も求める」
ここまで静かに微笑んでいたスコットが、柔らかい口調でチムチムに頼んだ。
結局チムチムの言いたいことはわからなかったけど、オッケーってことでいいよね。
お金がない俺たちからすれば、食事を奢るだけでガイドしてくれるチムチムはありがたい存在だ。
***
「ねえ、なんで死んでないの?」
勇者パーティ【黄金の輝き】の本拠地。
その広いリビングの床に、1人のクズが横たわっていた。
自らの意志で横になっているわけではない。メンバーのセイラにこてんぱんに殴られ、蹴られたことによって、死体のように地面に転がっているだけだ。
「アーサーをあんたみたいなカスが追放したことで、政府から私たちに与えられる予算が減って、この家もすぐ差し押さえられる、そう言いたいの?」
「その通りだ……」
ライドは大量の鼻血を出しながら地面に転がっている。
「確かに形式的にはパーティを抜けられないかもしれないけど、私にとってはあんたと同じ空間にいることが屈辱だわ。もう実家に帰ることにしたから」
「ま、待てよ!……だったら違約金払え……」
「違約金? 何が言いたいの?」
「契約はこうだ……正式に脱退していない限り、オレたち【黄金の輝き】のメンバーは協力して仕事をする。依頼を受けて現場に派遣されても、登録しているメンバーが全員いなければペナルティを食らう、って契約だ……」
こういう時に契約を持ち出してくるライドに、少し離れた位置からこの無様な様子を見ているヌーナが軽蔑の視線を向ける。
「オレたちは勇者パーティの仲間だ……契約違反はあり得ないだろ?」
「勇者のいないパーティを勇者パーティとは呼ばない。決めたわ。私は抜ける。たとえペナルティを受けようとも」
「あたしも抜けます。きっと政府に話せばわかってくれるはずです」
「そんなわけないだろ! 受付嬢はみんなオレにメロメロなんだぜ! お前らの言うことなんて聞くかよ!」
「「はぁ?」」
見事に女性2人の声がシンクロした。
これには調子付いていたライドも怪訝な表情を見せる。
「可哀そうだから言わないでおくわ。受付嬢があんたのことをどう思っているか」
「そうですね……」
「なんだよ! 言いたいことがあるならはっきり言えよ! いいか! お前たちは絶対に【黄金の輝き】を抜けられないからな!」
「「……」」
セイラとヌーナは無言だった。
もうこれ以上話しても無駄だとわかっているからである。
2人はすでに荷物を持っていた。長旅に行くとでもいうような、大荷物。
実際のところ、それが答えである。
「私たちはもう二度とあんたの前に姿を現さない。アーサーをさがすわ」
「あたしはセイラさんについていきます」
「おい! オレがずっとお前たちの傍にいてやるって約束しただろ!」
「キモいからそういうのやめて。そして死んで」
それがセイラの最後の言葉だった。
無表情で顔面を踏み付けられたかと思うと、次の瞬間には2人は消えていた。
ライドに残ったのは、もう住めなくなる豪邸と、使いすぎてほぼなくなってしまったお金、密かに隠し持っていたセイラのパンツだけだった……。