第5話 伝説の勇者、かませ犬をぶっ飛ばす
俺の顔が有名なのは、王都の中だけだ。
魔王を倒した伝説の勇者アーサー。
その肩書きは一応ローラン王国全土に広がってるらしいけど、顔までは知られてない。
まあ、今まで王都を出してもらったことあんまりないもん。
魔王を倒すまでは王都に閉じ込められてたからね、俺たち。魔王城に派遣された時に、久しぶりの王都の外だったんだから。
というわけで、ようやく王都から解放された俺はハイテンションだった。
馬車から外の移り行く景色を眺め、これが旅だよなぁ、とボーっとしていたと思う。
とにかく、勇者を辞めるってこういうことだ。
フリーダムが確約される。
そういえば、パーティを抜ける手続きって面倒だったなぁ。
そこらへんはライドが適当にやってくれていることを祈ろう。1秒でも早く俺を追放してほしいね。
「セルベリアが見えてきたっすね。王都とは別世界みたいっす」
「そうだね。僕も来たのは初めてだよ」
王都近郊のそれなりに発展した都市を抜け、観光都市セルベリアが顔を出した。
オースティンが言った通り、セルベリアは別世界。
王都がレンガと石に満ちた街だとすれば、セルベリアはコンクリートに満ちた街。
建物の外観がまるで違う。
王都の建物が全体的に低いのに対して、セルベリアの建物は高い。現地の人々は建物のことを『ビル』って呼んでるらしい。
なんかいいね。人の名前みたいじゃん。
ビールとは何か関係があるのかな。
「2人とも、こっちの門を通るのは税金がかかるらしいから、出してもらっていいかな? 今無一文なんだ」
我ながら頼りない勇者だな。
ほんとに申し訳ない。
言い訳はあるよ。俺、理不尽に追放されたからね。お前ほどの実力があればお金なんていくらでも稼げるだろ!ってライドにブチ切れされて、ノーマネーで放り出されたわけよ。
普通にライド君って俺のファンだよね。
「もちろん構わないよ。正直僕も、まだバイトでお金稼ぎ始めたばっかなんだけどね」
「ごめんなスコット」
「いやいや、あっちゃんのおかげで酒場でバイトできたようなものだから、僕の稼いだお金は実質あっちゃんのものなんだよ」
俺はそんなに強欲じゃないよ。
ていうか、この魔王いい奴すぎるでしょ。
全世界の人間に見習ってほしい。
「おれが出しますよ、アーサーさん。おれが公務員してるのも、アーサーさんのおかげっすから」
「でも魔王軍を解体したのも実質俺だから、プラマイゼロじゃない?」
「違うよ、あっちゃん。実はあの時、僕が経営していた魔王軍は赤字だったんだ。給料未払いが続いててね……だから解体するのは当然のことだし、それを機にみんながいい就職先に移れたのが何よりも嬉しいんだ」
魔王軍に赤字とかあるんだね。
その時はノリでやってたから、深いこと何も考えてなかった。危ないね。
でもまあ、スコットが笑顔ならいいんじゃないかな。
***
なんと税金はオースティンが全員分払ってくれて、スムーズに観光都市セルベリアに到着。
あとで屋台のミートパイを奢ってやろう。
「観光都市なだけあって、街が活気で溢れてる感じがするね」
「屋台からいい香りもするし、流れる演奏は雰囲気最高。さすがは観光都市って感じだな」
すれ違う人々はみんな笑顔だ。
愛想が良く、つい声をかけたくなってしまう。
「こんにちはー」
「セルベリアへようこそ! 観光の方ですか?」
「いやー、いいとこですね~」
「あそこにある塔がこの街のシンボルであり、中心です。展望台からの眺めは最高なので、ぜひ登ってみてくださいね」
「ういーす」
***
というわけで。
俺たち3人はとんでもなく高い塔の前に来ている。
魔王城の城壁の高さの5倍くらいはありそうだ。これにはスコットもびっくり。
「真下から見ると少し怖いまであるね」
「確かに威圧感があるっすね」
2人の言う通りだと思ったので、ノーコメント。
無駄なセリフを吐かないことも大切だ。
「君たちのような、空も飛べない愚民にはそう見えるだろう。実に愚かだ」
ボーっと3人で塔を眺めていた時だった。
急にイキった少年が声をかけてくる。
少年はスコットよりも小柄で、腕にくっつくようにして翼が生えている。ヒューマンじゃないらしい。
鳥人だ。
どうやら俺たちを煽ってるらしい。そういうのウザいから普通にやめてほしいよね。
「俺は空飛べないけど、スコットは飛べると思うよ。元魔王だし」
「ほざけ。そんな弱そうな男が魔王なわけないだろう」
「まあ、信じてもらえるわけないか」
そんなのわかりきったことだ。
「とりあえず、俺たちは今、普通に観光がしたくてここ来てるから、普通に建物の階段で塔を登って、普通に景色を眺めて、普通に階段で降りてくるから、うん」
「プライドは高い者は、自分が我よりも劣っていることを認めようとしないようだ」
「え、君普通にウザいね」
なんかウザいな。
そんな煽ってくるならいいよね。
俺は調子に乗っている鳥人の少年を塔のてっぺんまでぶっ飛ばした。