第1話 伝説の勇者、あっさりと追放される
「アーサー、お前にはこのパーティを抜けてもらう」
「……ん?」
俺がリーダーをしている勇者パーティ、【黄金の輝き】の本拠地。
魔王討伐で手にした大金をいっぱいつぎ込み、完成させた大豪邸。
そこのリビングで、俺は今、パーティ追放を言い渡された。
「えーっと……なんで?」
「いいか、オレはなぁ、セイラとヌーナが好きなんだよ」
「そうなの? だったら告ればいいじゃん」
セイラとヌーナはこのパーティの女剣士と治癒師だ。
どうやら俺を追放しようとしている盗賊のライド君は、この2人にクラッシュしているらしい。
別にいいと思うよ。
パーティ内恋愛禁止とか言った覚えはないしね。
勝手に付き合って、勝手に結婚してください。俺は応援するよ。
「あ? ふざけんな! あいつらは2人ともお前が好きなんだよ!」
「え! まじで?」
「ちょっと前に聞いた! クソっ! なんでお前なんだよ! そりゃあ魔王倒した勇者だし、金髪に碧眼とか超かっこいいし、頼りになるし、優しいし、気さくで話しやすいし、リーダーシップあるし、最高だけどよ! なんでお前なんだ!?」
「めっちゃ褒めてくれるじゃん……」
そんなべた褒めするのに、追放するの?
おかしくない?
「だからお前を追放してやる! もう魔王なんて死んだんだ! お前がパーティにいなくとも、オレたちだけでやっていける!」
「まあいいけどさ、2人には俺の追放理由なんて説明するの?」
「パンツだ!」
「は?」
「オレがさっき2人の部屋からパンツを盗んだ。その犯人をお前ってことにして、正義のヒーローであるオレが追放したことを事後報告する!」
幻滅したよライド君……。
俺の目の前では、ドヤ顔のライドが2人のパンツをぶん回している。アホか。
「わかったよ。俺は黙って追放されるから、そのパンツ窃盗事件の犯人にするのだけはやめてくれるかな?」
「ちっ……じゃあさっさと出てけ!」
「はーい」
というわけで、『元』伝説の勇者、アーサー・カイザーリングはパーティを追い出されましたとさ。
***
夜道を1人で歩く。
俺たちの本拠地は王都の中心地にあったので、しばらくは街灯に照らされた賑やかな街を歩くことになるだろう。
この追放事件の1番の被害者であるセイラとヌーナは大丈夫かな。
あの時は買い物に行っていた2人。
帰ってきてパンツ盗まれてたってわかったら、セイラとか特にブチ切れだよ。
***
「……今、なんて?」
「いや……だから、あのアーサーがお前たちのパンツを盗んでたところをオレが捕まえて、そのままパーティを追放してやったって言ってんだろ!」
「はぁ?」
【黄金の輝き】の本拠地。
先ほどアーサーが追放を言い渡されたリビングでは、鬼の形相をしたクール系美女に、ライドが踏みつけられていた。
冷酷な切れ長の瞳で、ライドを見下ろしている。
「どうせあんたが盗んだんでしょ! アーサーがそんなことするはずないじゃない! 死になさい!」
「オレを信じてくれよ! オレとお前の仲だろ?」
「あんたと仲良くなった覚えはない。死ね、このクズ!」
「違うんだってぇ……」
弱く、小さくなっていくライドの声。
彼の顔面を踏むセイラの視線は、時を刻むごとに冷たくなっていく。
「最低です、ライドさん……」
その光景を見つめるのは、ゆるふわ系美少女のヌーナ。
すっかりライドに幻滅している。
「この前はあたしたちのお風呂を覗こうとしてましたよね……」
「ヌーナ、もう心配はいらないわ。こいつは私が殺す」
「やめろって! オレはお前たちのためを思って――」
「もうしゃべるなカス。早くアーサーを連れ戻せカス。そしてお前がパーティから抜けろカス」
***
決めた。
俺、今日で勇者引退する。
そろそろ辞め時だと思ってたし、ライド君もちょうどいい時に追放してくれたな。ありがとよ。
ということで、これから無一文の俺はその暮らしだ。
再出発。
何もないけどいいじゃない。
のんびり旅をして、国を転々としながら生きていきたいね。
よし!
せっかくだし、あいつを誘ってみよう!
新しい生活を妄想して上機嫌になった俺は、あいつと会うためにアブラーバ横丁を走る。
目的地は王都で1番の酒場だ。
「どーも2日ぶりーっす」
「あれ、あっちゃん? 僕がここで働き出してからすっかり常連だね」
「いやいやぁ、今日はお前に大事なお知らせがあってだなぁ」
「僕に?」
酒場に入ると、黒髪の好青年が出迎えてくれた。
そう、彼こそ、漆黒の魔王、スコットなのである!
スコット・マオウダゼは、魔王なのに超いいヤツだ。
魔王討伐の時に初めて出会い、なんかちょっと話してみたらめっちゃ面白くて優しいヤツだった。
もうなんとなくわかると思うけど、俺は魔王を倒したわけじゃない。
魔王に酒場のバイトを勧めただけ。
そしたらスコットはすんなり了承。
魔王軍を解散させ、闇の騎士たちに新しい仕事先を紹介、自らも魔王の役職を退任し、王都ナンバーワンの酒場でバイトを始めた。
「なあスコット、さっき俺、パーティから追放されてさぁ、勇者引退することにしたんだよね」
「え、ほんとに?」
「そうそう、で、本題なんだけど、俺とお前で、引退旅行にでも行こうぜっ」