信念と妨害
今日は二話分投稿します!
毎日19時頃投稿予定です。
生徒会室に積まれた報告書を前に、ユーリ・フォン・リヴァルトは眉をひそめた。報告の多くは、セレスティア陣営に対する選挙妨害に関するものだった。セレスティアのポスターが破られたこと、ビラの配布が妨害されたこと、説明会の会場が使えなくなったこと――。全て、彼の支持派である貴族の生徒たちが、彼の名を借りて行っている行為だった。
「……愚かな」
ユーリは静かに呟いた。彼の瞳には、報告書に対する明確な嫌悪感が宿っていた。男爵家という下級貴族の出でありながら、並外れた才覚と努力で生徒会長の座を掴んだユーリは、己の能力こそがすべてだと信じていた。そして、その信念の延長線上に、ジークハルト・フォン・アトレイディスの掲げた「秩序」と「実力主義」があった。
(ジークハルト様が望むのは、真の力を持つ者が、その才覚をもって上り詰めること。このような姑息な手段は、最も嫌悪すべき無様な行為だ)
彼は生徒会長選挙を、自身の理念を体現する場と捉えていた。それは、真に優れた者が勝利する、正々堂々とした「力」と「信念」の衝突でなければならない。フレイアストが「落ちこぼれ」であるならば、そのような小細工に頼らずとも、正面から打ち砕けばいい。むしろ、このような妨害は、彼の支持派の無能さを露呈させ、彼自身の名声に泥を塗る行為だとさえ感じていた。
しかし、だからといって、彼らを直接的に咎めることもなかった。彼らがユーリへの忠誠心から行動していることも理解していたし、多少の妨害はフレイアストを追い詰める上で「有効」であることも事実だったからだ。だが、このまま野放しにすれば、彼らの行動はエスカレートし、ユーリが望まない「汚い選挙」へと堕落しかねない。
ユーリは自席から立ち上がり、窓の外、中庭の方へと視線を向けた。遠く、セレスティアが小さな声で何かを訴えているのが見える。その横には、冷静な表情で彼女を支えるフレイアストの姿があった。
「フン……」
彼は小さく鼻を鳴らした。この戦いは、「代理戦争」なのだ。ならば、己の信じる「秩序」にのっとり、より高潔な舞台で決着をつけるべきだ。
ユーリは側近を呼び、簡潔な指示を出した。具体的な言葉で妨害行為を止めるのではなく、学園内の警備体制の強化や、選挙活動に関する「規定の厳守」を徹底させる、という遠回しなものだった。それは、彼の支持者たちに対する暗黙の警告であり、これ以上の逸脱を許さないという意思表示に他ならなかった。
(これも、力の一部だ。不平等だと嘆き、そこで終わるならばそれまでのこと。だが、ジークハルト様の弟であるならば、この程度の障害は越えて見せろ。その力がないならば……。正義をもって采を下してやろう)
ユーリの冷たい瞳の奥には、確固たる自信と、相手を正攻法で叩き潰すことへの強い意志が宿っていた。
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