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揺るがぬ決意

毎日19時頃投稿予定です。

人気のない渡り廊下で、フレイアストはユーリ生徒会長から告げられたすべてをセレスティアに語った。自身の退学の危機、そして、それを回避するための「次期生徒会長選挙での代理戦争」という理不尽な条件。


セレスティアは、フレイアストの言葉を聞くにつれ、顔から血の気が引いていくのが分かった。


「……退学……っ」


その言葉の重みに、息をのむ。これまで、どれほど彼の研究が学園から冷遇されてきたか、そして彼がどれほどその探求に情熱を傾けてきたか、間近で見てきたセレスティアには痛いほど理解できた。


「そして、候補者を立てなければならないのですが……」


フレイアストは言葉を選びながら続けた。その視線は、セレスティアの顔からわずかに逸れている。


(候補者……。フレイアストさんの言いたいことは、痛いほどわかる)


セレスティアは、フレイアストの抱える困難を瞬時に理解した。フレイアスト自身、「落ちこぼれ」と蔑まれ、周囲から孤立している。彼には、生徒会長選挙で勝利できるような、学園内の有力者や上級生との伝手など、あるはずがない。それは、同じように「出来損ない」と見なされ、貴族社会で冷遇されてきた自分自身の境遇と重なった。


(学園の貴族派閥は、あまりにも強固だ。彼らが立てる候補者は、きっと名門の出で、多くの支持を集めている人だろう。そんな相手に、勝つには……)


そして、セレスティアの中に、一つの考えが閃いた。それは、同時に恐怖と、そして抗いがたいほどの希望を伴うものだった。


セレスティアは、震える声で、しかしはっきりと口にした。


「フレイアストさん……生徒会長候補者、私……私が、なります」


フレイアストは、はっと顔を上げた。その瞳に、驚愕と困惑の色が浮かぶ。


「セレスティアさん、それは……できません。君を、これ以上巻き込むわけにはいかない」


フレイアストはすぐに首を横に振った。彼の言葉は、セレスティアを気遣う優しさを含んでいたが、同時に、彼女を危険に晒すことへの明確な拒絶だった。


「でも!フレイアストさんには、私しかいないでしょう?私なら、能力はともかく……二年生ですし、ユーグライト侯爵家という、一応の家格もあります」


セレスティアは必死に訴えた。彼女は、自分の能力が足りないことは自覚していた。だが、フレイアストが抱える「伝手のなさ」を補えるのは、学園で唯一彼の研究を理解し、彼と深く関わってきた自分しかいないと直感していたのだ。


「それでも、……あなたを、代理戦争に巻き込むことはできない」


フレイアストの表情は固いままだった。彼は、自身の探求のためとはいえ、セレスティアという臆病で繊細な人間を、苛烈な選挙戦という嵐の中に突き落とすことへの罪悪感に苛まれていた。


「違います!」


セレスティアは一歩踏み出し、フレイアストの手を強く握った。その手は、冷たいが、確かな熱を帯びていた。


「これは、フレイアストさんのためだけじゃないんです!以前、フレイアストさんが言ってくれましたよね?私の緑属性は『可能性』だって。 そして、『この世界を変えることができる』って!」


セレスティアの瞳には、涙がにじんでいたが、それを押し留めるように、強い光が宿っていた。


「ずっと『おまじない』だと、馬鹿にされてきた私の魔法を、フレイアストさんは『真理に最も近い』と、信じてくれました。これが、その可能性を開く一歩なんです!私自身の力を、私自身が信じるための、そして緑属性の評価を、この学園で、世界で変えるための、最初の一歩なんです!」


彼女の言葉は、確固たる決意に満ちていた。それは、臆病な殻に閉じこもっていたセレスティアが、自らの意思で、自身の進化を選び取ろうとする瞬間だった。フレイアストは、その強い輝きに、言葉を失った。セレスティアが、ここまで自らの意思で、明確な覚悟を示したことは、一度もなかったからだ。


「…でも……」


それでも躊躇するフレイアストに、セレスティアは追撃を重ねる。


「フレイアストさんは忘れていませんか? 私は君の先輩ですよ? たまには先輩として後輩にいい顔させてください」


そう言って浮かべたセレスティアの笑顔は慈愛に満ち、とても眩しかった。


フレイアストの胸に、温かいものが込み上げた。それは、もはや罪悪感ではなかった。深い感動と、そして彼女への絶対的な信頼だった。

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