初めての決意
毎日19時頃投稿予定です。
フレイアストさんが薬草園を足早に去っていくのを見て、思わず手を止めた。普段の彼は、どんなに疲れていても、植物の小さな変化一つ見逃さず、研究に没頭する人だ。それなのに、今日の彼はまるで心ここにあらず、私の問いかけにも上の空で、結局、早々に切り上げてしまった。背中が、いつもよりずっと小さく見えた。
(どうしたんだろう……何か、辛いことでもあったのかな)
これまでの私だったら、きっと「余計な詮索はしない方がいい」と、見て見ぬふりをしていただろう。人前に出ることを恐れ、誰にも関わらず生きてきた私にとって、他人の領域に踏み込むことなど、考えたこともなかった。下級貴族や平民の生徒からさえ「出来損ない」と嘲笑されてきた私には、誰かと深く関わる自信も、その資格もないと思っていたから。
でも、フレイアストさんは違った。
初めて会った時から、彼は私の緑属性の魔法を「地味」だとか「おまじない」だとか、一度も馬鹿にしなかった。むしろ、私の魔法が持つ可能性を誰よりも信じ、「生命の真理に最も近い力だ」と、私自身が気づかなかった価値を見出してくれた。彼が教えてくれた「細胞」の概念は、私の世界を大きく広げ、魔法に触れるたびに感じていた「確かなもの」の正体を教えてくれた。
私の研究が、私自身が、無意味ではないのだと、彼は証明してくれた。
(フレイアストさんが、私と真摯に向き合ってくれたから……今度は、私がフレイアストさんに向き合う番だ)
胸の奥に、小さな、しかし確かな炎が灯ったような感覚があった。それは、これまで感じたことのない、「誰かのために」という強い思いだった。彼が抱えているだろう重い秘密。それを知らずに、彼を一人にしておくことはできない。私の臆病な心が「やめておけ」と囁いたが、その声は、フレイアストさんへの感謝と、彼を支えたいという願いの前では、あまりにも小さかった。
その夜、セレスティアはなかなか寝付けなかった。翌朝、学園に向かう足は、いつもよりずっと軽かった。そして、朝一番にフレイアストを探し、彼の姿を捉えた瞬間、迷うことなく駆け寄った。
「フレイアストさん!あの……昨日、何かあったんですか?私、心配で……」
顔を上げたフレイアストは、少し驚いたようだった。だが、セレスティアの瞳には、もう後戻りできない、固い決意の光が宿っていた。
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