表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/130

候補者選定

毎日19時頃投稿予定です。

ユーリ生徒会長との「代理戦争」を受け入れたはいいが、フレイアストの心は晴れなかった。


ユーリは次期生徒会長選挙で勝てば退学処分を撤回すると言った。しかし、この絶望的な状況で、誰を候補者に立てるというのか。学園の貴族派閥が持つ影響力は絶大で、まともな候補者を見つけることは不可能に近い。


(まともに戦っても、勝ち目はない。勝つためには、既存の価値観を打ち破る、常識外の「何か」が必要だ。それに加えて、多くの生徒に受け入れられる公約を根拠を持ってアピールできる存在……)


考えれば考えるだけ、勝ち目が薄いことを認識させられるようだった。


(現在の学園内での多くの考え方には前生徒会長であるジークハルトの影響が未だに残っている。さらに言えば、貴族が大半を占める学園で、それをより貴族的に曲解した現生徒会長のユーリの考えが圧倒的な支持を得ている。唯一対抗できるとすると、入学式でその考えに正面から啖呵を切ったカイン第一皇子の絶対王政、……さらに中央集権的な考え。……彼ならば、第一皇子という背景、主席入学という実力、そして圧倒的なカリスマ性。十分に勝つ見込みはある。……だが、そもそも権利がない。生徒会長選挙の立候補者は二年生の生徒が対象だ。それに、彼が俺に協力してくれるとは思えないし、仮に彼の伝手を頼って二年生の候補者を立てることが出来たとしても、その候補者が宣言する公約は、さらに俺の立場を悪くするだろうし、間接的に帝国の貴族派と皇帝派のパワーバランスを動かすことになりかねない)


フレイアストにとって、ほぼ詰みの状況と言っていいだろう。


(今の帝国の絶妙な力関係を壊すリスクは犯せないし、何より、どちらの考え方も俺は推進するつもりはない。だとしたら……、俺が立てることのできる候補者は一択……)


フレイアストの脳裏には、薬草園で共に研究を重ねてきたセレスティア・フォン・ユーグライト侯爵令嬢の姿が浮かんだ。彼女の緑属性魔法は、帝国の魔法理論では「地味」「おまじない」と蔑まれてきた。しかし、フレイアストが教えた植生の概念を導入した研究によって、その真価は全く異なる形で開花し始めていた。


生命そのものに働きかけ、枯れた植物を蘇らせ、細胞レベルで活性化させる力――それは、食糧問題や医療問題にまで応用可能な、計り知れない可能性を秘めている。何より、皇帝でも貴族でもない、多くの平民が持つ特有の能力だ。今の帝国の上位層に偏った考え方に、新たな視点をもたらす契機となり得る。


セレスティアは、ユーグライト侯爵家という高い家格にありながら、緑属性という理由で冷遇され、学園でも孤立していた。その境遇はフレイアスト自身とも重なる。しかし、彼女の控えめな性格、そして何よりも、既存の常識に囚われず、この世界では未知の概念を柔軟に受け入れ、自身の魔法に応用する並外れた理解力と感性こそが、フレイアストが必要とする「常識外の何か」だった。


(彼女こそが、この代理戦争において、俺の力を最も雄弁に証明できる存在だ。そして、彼女の魔法が持つ本当の価値を示すことは、学園の、ひいては帝国の未来を変える一手にもなる)


だが、フレイアストはその考えを飲み込んだ。自分が退学を免れるために、これほど重い役割を彼女に背負わせてもいいのか。侯爵家という高い家格でありながら、ずっと人目を避けて生きてきたセレスティアの臆病な性格と、貴族社会で「出来損ない」と蔑まれてきた彼女の過去を思うと、とてもその考えを口にすることはできなかった。利用することへの罪悪感が、胸を締め付けた。


いつも通り薬草園に顔を出すも、フレイアストは上の空だった。いつもなら緻密な観察眼で植物の成長を見守り、熱心に記録を取る彼が、今日はただ黙って葉を眺めている。その沈黙は、普段の集中とは異なり、重く、どこか沈んだものだった。


セレスティアが何か話しかけても、彼は短い返事をするばかりで、視線は手元の植物に向けられたまま。彼女が心配そうな顔で覗き込んでも、いつものように目を見て答えることはなかった。彼の心は、目の前の研究ではなく、遥か先の、そして非常に重い決断の渦の中にあった。


実験道具を片付けながら、フレイアストは時計に目をやった。まだ時間は残っている。しかし、これ以上ここにいても、セレスティアに余計な心配をかけるだけだろう。


「セレスティアさん、今日はこの辺で失礼します。少し、疲れてしまって」


無理に作った笑顔でそう告げると、フレイアストは彼女の返事を待たずに、足早に薬草園を後にした。彼の背中は、いつもより小さく、そして、どこか重そうに見えた。

ブックマーク、高評価、グッドボタンが何よりも励みになります!

ちょっとでも続きが気になると思っていただけたら是非お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ