代理戦争の始まり
「フレイアスト・フォン・アトレイディス。貴殿の度重なる規則違反、学園秩序の破壊行為は看過できない。学園規定に基づき、退学処分と決定する」
生徒会長ユーリ・フォン・リヴァルトの冷徹な声が、生徒会室に響き渡った。フレイアストは冷静な顔のまま、ユーリを見つめ返す。夏休みが終わり、秋の気配が濃くなる頃、フレイアストを取り巻く状況は悪化していた。
特に、学園内の貴族派による圧力は、それまでの巧妙な妨害から、直接的かつ露骨なものへと激化していた。
フレイアストが予約した研究室は連日使用不可となり、図書館の特殊資料は閲覧どころか申請自体が却下される。彼の出席記録には不審な欠席が頻発し、小テストの採点には不可解な減点が目立つようになった。
学園の教師や事務員も、露骨に彼を避け、中には「君の行動は学園の品位を貶めている」と直接非難する者まで現れていた。
(退学処分、そう来たか……)
フレイアストは、ユーリの行動の意図を即座に分析していた。
(ユーリ生徒会長の任期は、もうすぐ終わる。この学園で最も強い権限を持つ生徒会長の座にある今のうちならば、皇帝の次に権力を持つと噂されるアトレイディス家であろうと、俺を排除できると踏んでいるのだろう。ジークハルトの存在を絶対視する彼にとって、魔法適性のない俺の存在がよほど許せないのだろう。「ジークハルトの唯一の汚点」として、徹底的に排除する好機と捉えているわけだ)
フレイアストは、ある程度、風当たりが強くなるだろうことは予測していたが、退学処分という究極的な結論を告げられるとは考えてはいなかった。
この処遇に対して、現時点で特に抗える策は見い出せず、入学時点で父にはすでに頼っているので、再びその力を借りることは憚られた。
(こうなってしまっては受け入れるほかにないか……)
そして、ユーリは不敵な笑みを浮かべ、さらに言葉を続けた。
「しかし、貴殿も急に宣告されても納得ができないだろう。したがって一つだけ、退学を免れる道を示してやろう」
そこで一呼吸置き、切れ長の目をいっそう鋭くして告げる。
「貴殿の力が有用だということを示せ」
フレイアストの眉がわずかに動いた。
「俺の力を?」
「そうだ。次期生徒会長選挙の場をその舞台としよう。ジークハルト様の弟でありながら、魔法適性を持たず、家格で入学を許された学園の秩序を乱す存在、君が何を思ってこの学園に入学したのか、私には理解できない。だが、もし貴殿が擁立した候補者が生徒会長選挙で勝利を収めることができたなら、その力を認め、退学処分は撤回しよう。ただし、敗北すれば、二度とこの学園の敷居を跨ぐことは許さない」
(なるほど。ユーリ生徒会長が立てた候補者に対して、俺が候補者を立てて、どちらが当選するかで争う。要するに代理戦争というわけか……)
ユーリの言葉には、フレイアストへの明確な軽蔑と、挑戦的な傲慢さが滲んでいた。彼はフレイアストを試すというよりは、ジークハルトが提唱した、力を持った貴族の台頭というのを体現しようと試みているのだ。
(あまりにも俺に不利な条件だ。落ちこぼれと蔑まれて来た俺に、誰かを支援することなど出来るのだろうか? それも、圧倒的な支持を得ている現生徒会長が立てた候補者に勝つことなど……、奇跡が起きなければ無理だろう。しかし、この申し出を受ける以外に退学を免れる手立てが思い浮かばない。それならば……、無駄であろうともあがいて見せようじゃないか)
「わかりました。そのお心遣いに感謝します。必ず、俺の力を示して見せます」
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