初夏の決断
毎日19時頃投稿予定です。
春が終わり、照り付ける太陽が陽炎を揺らめかせる中、理事長室に隣接する生徒会室の窓から、生徒会長は中庭を見下ろしていた。色鮮やかな木々の緑は、気だるい暑さの中に清々しさを添えている。
しかし、彼の心には、決して収まることのない苛立ちが燻っていた。
彼の名は、帝立学園生徒会長、ユーリ・フォン・リヴァルト。その家は男爵家と、貴族の中では決して高い地位ではない。しかし、彼は並外れた才覚と努力でその地位を築き上げてきた。ユーリは、己の能力こそがすべてだと信じていた。そして、その信念の延長線上に、貴族中心の寡頭制を推進する派閥に属していた。
だが、その彼が唯一、絶対的に崇拝する存在がいた。前生徒会長にして、帝国史に名を刻むであろう英雄、ジークハルト・フォン・アトレイディス。ユーリは、ジークハルトの言葉を常に胸に刻んでいる。「秩序を乱す者は、容赦なく排除せよ」――そう、あの英雄は言っていたはずだ。ユーリは、ジークハルトの真の意図を深く理解していると信じていたが、その実、彼の思想を己の都合の良いように曲解しているに過ぎなかった。
そして今、その完璧な秩序に、たった一つの「汚点」が入り込んでしまった。ジークハルトの弟であり、アトレイディス家の落ちこぼれ、フレイアスト・フォン・アトレイディス。
(これまで、間接的な妨害で排除できると考えていたが……甘かったようだな)
ユーリの元には、フレイアストに関する報告が日々上がってきている。図書館での奇妙な調査、セレスティア・フォン・ユーグライトとの接触、そして人目を避けた薬草園での行動。ユーリを筆頭とする学園の貴族派、すなわちジークハルトを神格化し、その理念を曲解した学園貴族派の生徒たちが、彼の研究資料を紛失させ、研究室の予約を妨害し、教師への根回しで協力を阻んできた。だが、フレイアストは一向に諦めようとしなかった。それどころか、セレスティアとの緑属性の研究は、周囲の予想を超えて進展しているという噂まで耳に届き始めていた。
「緑属性」など、平民のおまじないに過ぎない。ジークハルト様も一定の関心は寄せていたようだが、力を注いだのは、真の正義を持った、先導する力のある貴族の台頭、帝国を盤石にすることだったはずだ。フレイアストの行動は、ジークハルトの輝かしい功績に泥を塗り、学園の誇りを傷つける行為に他ならない。ユーリはそう確信していた。
フレイアストは、まさにその「秩序を乱す者」の典型だった。彼の存在は、学園の、そしてジークハルトの理念の根幹を揺るがしかねない。
ユーリの冷たい瞳に、明確な決意の光が宿った。
(これ以上の放任は、学園のためにならぬ。ジークハルト様の栄光のためにも……)
窓の外では、夏の気配が濃くなり、入道雲が空を支配していた。それは、容赦ない決断が迫りくるような恐ろしさを感じさせた。
フレイアスト。
この学園から、徹底的に排除する。
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