妨害の巧妙化
セレスティアとの緑属性の研究を進めるにつれて、俺の学園での行動範囲は確実に広がっていった。
特に、これまで貴族生徒たちがほとんど足を踏み入れることのなかった薬草園や、特別聴講生専用の資料室といったエリアに、俺が出入りするようになったことは、学園内の貴族派の目には、看過できない「異端」な振る舞いとして映ったようだった。
彼らは、帝国における貴族派とは少し違う。最も大きな点は、卒業した英雄たるジークハルトの理念、そして彼が築き上げた学園の「秩序」や「高貴さ」を崇拝しているところだ。
「崇拝」というところが問題だ。そもそもジークは既存の貴族派とは別の理念を抱いていたようだ。それは、サンに調べさせたことで判明したのだが、ジークが言わんとしていたことは平民さえも徴用する実利主義的な側面が強く、どちらかと言えば貴族制を謳ったもののように思えた。
対して、既存の貴族派の考えは、貴族中心の寡頭政の側面が強いと思える。
さらに、学園内の貴族派はそれに加えて、ジークを神格化した、より選民思想の強いものに思える。これは、ジークを仰ぎながらも、その理念を曲解したもので、俺にとっては厄介極まりないものだ。
彼らからすれば、魔法適性を持たない「落ちこぼれ」である俺が、その秩序を乱し、さらに理解不能な「特殊属性」に深入りすることは、許しがたい冒涜なのだろう。
彼らによる妨害は、これまでの稚拙な陰口や物理的ないじめから、より組織的で巧妙なものへと変化していった。
図書館で、俺が目を付けていた緑属性やその他の特殊属性に関する貴重な資料が、いざ借りようとすると、高確率で「紛失扱い」になっていることが増えた。貸し出し記録にも残っておらず、まるで最初から存在しなかったかのように扱われる。
あるいは、ようやく空きを見つけて予約した研究室の時間が、突然「他の生徒と重複している」と告げられ、一方的にキャンセルされることも頻繁になった。事務の生徒も教師も、どこかバツが悪そうにしながらも、彼らの言い分を鵜呑みにしているように見えた。
教師への根回しも顕著だった。俺が特定の資料の取り寄せや、学園施設の使用許可を求めると、なぜか担当教師の反応は鈍く、最終的には「規則に則って手続きを」と、曖昧な言葉で協力を拒否される。
表立って敵意を向けることはないが、見えない壁がいくつも立ちはだかる。それは、貴族派の生徒たちが、裏で教師や事務員に圧力をかけ、俺への協力を妨害している証拠だった。
学園中庭の木々の緑が一段と濃くなり、日差しが強くなる初夏の季節の進行とともに、俺へのプレッシャーも増していく。彼らは、俺が学園で自由に研究を進めることを、組織的に阻害しようとしている。
(これが、この世界の「秩序」を守ろうとする者のやり方か……。不都合な「異物」を、力ずくで排除するのではなく、じわじわと行動を制限し、窒息させる。しかし、俺がここで立ち止まるわけにはいかない。この程度の妨害で、俺の探求心は潰えはしない)
俺は、彼らの巧妙な嫌がらせ一つ一つを冷静に分析し、その裏にある意図を読み解いた。
彼らの行動は、ある種の集合知であり、帝国という巨人の意志を体現したものだと感じた。
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