↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/152

魔力適性検査

「……魔力適性はございません」


~数時間前~


俺は帝都に来ていた。生まれて初めての帝都だ。曖昧ではあるが前世の知識がある俺は、元の世界と比べて、この世界がテクノロジー的に酷く劣っているということに気が付いていた。前世の知識で言えば古代レベルの文明だ。最初はそのことに愕然としたが、今は結構気に入っている。


何といっても魔法が使えるのだ!


魔法技術が発達した代わりに科学技術は発達しなかったのだろう。


俺は馬車に乗って父と一緒に帝都に来ていた。


父のチェスターは亜麻色の髪の毛を整髪料でまとめて、切れ長の濃い霞色(かすみいろ)の瞳をしている。いかにもできる男といった様相で、高貴なオーラまで身にまとっている。


実際優秀な人材のようでアトレイディス領地は安定しており。さらには魔王領との国境をほとんどアトレイディス騎士団一つで任されていた。


内政手腕もさることながら、自らは火属性魔法の使い手である。俺が生まれる一年ほど前にあった魔王軍との小競り合いで、一時行方不明になるものの、単身で帰還してきたという。


そんな父は口数は少ないものの俺には優しかった。政務に忙しいながらも、時間が空いた時には自らが剣術や体術を厳しくも優しく教えてくれたり、何かと時間を作っては俺にいろいろと教えてくれていた。


馬車の中ではほとんど会話もなかったが、別に苦ではなかった。


魔力的性の検査は大変重要なもので。結果いかんによってはその先の将来を大きく左右することとなる。


俺はまあ十中八九大丈夫だろうと思っていたのだが、無意識に緊張が顔に出ていたらしく……


「フレイアスト。そんなに緊張せずとも大丈夫だ。お前がどのような結果になろうとも私がついている」


そんな父の言葉に心から安堵する。


「はい、父上。アトレイディスの名に恥じぬような結果を出して見せます!」


その言葉に父は一瞬なんとも言えない表情を浮かべるが、すぐにいつもの表情で馬車の外に目を向ける。


魔力的性は黒水晶という特別な水晶を使って判別される。帝国中のあちこちに黒水晶は配置されているのだが、帝都では他と違って魔術的性の細かな情報まで読み取ることができる。


地方だと大まかな属性までしか分からないが、帝都だと黒水晶の情報を細かく読み取る専門の検査官がいて細かく分析してくれる。例えば、そのなかで攻撃的な魔法に適性があるとか防御的な魔法に適性があるとか。


なので貴族は帝都での適性検査を受けることが推奨されていた。俺も同じく精密な検査を受けるために帝都まで来ていた。


そうこうしていると馬車が停まり、従者が声をかけてくる。


「チェスター様。目的地に到着いたしました」


ああ。と短く返事をし、父が馬車を降りる。俺もそれに続く。


建物の入り口を抜け、父の後ろを付いて歩く。建物の中はかなりの人がいて、俺と同じように魔力適性を調べるために親を連れた同い年であろう男女が何人も来ていた。おそらく全員貴族であろう、豪華な衣装に身を包んでいる。


俺は前世で貴族と何かあったのだろうか? 貴族という連中に自然と嫌悪感を抱いていた。


この中でもアトレイディス家は一目置かれる名家なのだろう、チェスターの姿を確認した貴族連中が揉み手をしながら挨拶にやってくる。


父はそのすべてをそつなくあしらっていく。しかし、後ろに控える俺の方を皆が怪訝そうな目で見てくる。決まって「そちらのお子さんは?」という質問を何度もされる。


状況からみて息子しかないだろうが、俺の何がそんなに気になるのだろう?


ひと通り挨拶の行列が落ち着いたところで父が呟いた。


「すまんな」


「あ、いえ。別に何ともありません」


何に謝られたのかよくわからなかった。人込みが殺到して気疲れしてしていると思って気を使ってくれたのだろうか。


「フレイアスト・フォン・アトレイディス様」


受付に名前を呼ばれる。ついに俺の番が回ってきた。さて、どんな適性だろうか。


父も付き添ってロビーから別室に案内される。中には台座に置かれた直径15センチくらいの黒水晶と、一人の男が立っていた。


「ようこそお越しくださいました。アトレイディス辺境伯」


軽く相槌をうちながら「よろしく頼む」と言った父の横顔は少し緊張しているように思えた。


黒水晶は、手を触れると中心に様々な色や模様が現れるらしい。各属性の色であったり。波紋が浮かんだり何かが漂ったり。微妙な変化の違いを検査官が観察して適性を判断する。


「では、フレイアスト様。こちらの水晶に御手を触れてください」


台座に近づき恐る恐る手を触れる。


………。


おかしい……何も変化が現れない。強いていえば若干、黒が濃くなったような気がしないでもない……


傍らに立つ父を見上げると、水晶を凝視していた。一瞬、眉根をぴくりと動かすと、そのままじっと水晶を睨むように見つめる。


………これはもしかしてまずいのではないだろうか?


一気に血の気が引く感覚に襲われ、全身から冷汗がぶわっと噴き出す。


嫌な予感は予想通りで、残酷な事実が告げられる。


「フレイアスト様。大変申し上げにくいのですが……魔力適性はございません」


「魔力適性がない……」


俺はそう呟くと目の前が真っ白になりかけるが、冷たく発せられた父の言葉が意識を保たせる。


「検査官殿。このことは他言無用にしてもらおう」


父が少し圧を込めた口調でそう言い放つ。


「し、しかし……」


検査官は圧されたようで、口どもる。


「無論。報告が必要な場所には報告してくれて構わん。しかし、最小限に留めておきたい。今すぐ上の者に取り次いでくれ。私から話す」


そう言った後、父は俺の方を見る。


「お前は馬車で待っていろ」



そして俺は、一喜一憂する同年代の男女がいるロビーの中を、一人トボトボと通り抜けて馬車に戻る。


座席についてがっくりとうなだれて考える。これはどう考えてもまずい状況だ、下手をすると家を追い出されるのではないか? 五元素どころか、適性がないとなれば貴族家の次男の俺にとっては致命的だ。


今俺が使える魔法は、無属性の魔法だけだ。近くのものを手を触れずに少し動かしたり、軽いものなら浮かべて移動させることもできる。だが誰でも使える初歩的な魔法だ。


成長すれば他の属性魔法も使えるだろうが……精々、物を乾かす程度の風を吹かせたり、ちょっとした光源を発生させて辺りを照らしたり……それも誰だって使える生活便利魔法といったところだ。


「貴族の面汚し……落ちこぼれ……」


適性のない俺はこれからそう言われながら育っていくのだろう。そんな未来に絶望感を感じる。


あれこれ嫌な想像ばかりが浮かんでは消え。黒い何かが、俺の進む道を閉ざしていく光景が見える気さえした。


無限に広がる闇に吸い込まれていくイメージの中、父が馬車に戻ってきて我に返る。


「帰るぞ」


その一言だけ言って馬車に乗り込む。対面に座った父はいつもの無表情を浮かべて窓の外の景色に目をやる。


しばらく、無言が続いていた。父は何を考えているのだろうか? 落ちこぼれの息子について今後どうするか考えているのだろうか?


それとも、すでに興味を失っているのだろうか……表情からは何も読み取れない。とりあえず何か反応が見たかった俺は……


「父上。申し訳ございません……」


アトレイディス家に生まれながら何の適性も持たない……だから謝った。


それに対しての父の返答は思いもよらぬものだった。


「何を謝ることがある?」


「え……? 僕は……アトレイディスの者でありながら五元素どころか、何の適性もありません……家名に泥をぬるようなことを……」


「言ったはずだ。どのような結果になろうとも私が付いていると。何も問題はない」


そう言って父は正面からじっと、瞳を見つめてくる。


「父上……」


気が付けば涙が溢れ出していた。


俺の頭に、ポンポンと二回だけ父は優しく手を触れて、再び窓の外の景色に目を移す。


無力感に悔しさを覚えつつも父の暖かさに触れ、そっと胸をなでおろし、涙を拭ってうつむく。


それと同時に強い想いが湧いてくる。


この程度でへこたれるわけにはいかない、まだ俺の道は閉ざされてなどいない。


根拠などないが前世の俺はこんな柔じゃなかったはずだ。この程度のことは絶望するに足らない。



今まで恵まれた環境で育ち、十分幸せを感じていたはずなのに……



頭の中に、今まで眠りについていた意志が目覚める感覚がする。


俺は何にも縛られない……強くなって自由を勝ち取る……



ブックマーク、高評価、グッドボタンが何よりも励みになります!

ちょっとでも続きが気になると思っていただけたら是非お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。