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屋敷での日常

毎日19時投稿予定です。

「フレイ。お前、適性無かったらしいな? アトレイディス家の面汚しが。まあ俺は感謝しているよ、これで次期当主は俺で確定だ」


兄のジークハルトは昔から何かにつけて俺にちょっかいをかけてくる。俺が適性なしだと分かってよっぽど嬉しいのだろう。


そんな兄、ジークを俺は相手にしない。所詮まだ9歳のお子様だ、それに俺は当主なんて最初から望んではいないのだから。


辺境伯である父はしょっちゅう前線の駐屯地に赴いたり、帝都に呼び出されたりと家にいる間はほとんど執務室に籠りきり。父のことは尊敬しているが、その跡を継ごうとは思えなかった。


「僕は家督に興味はありません。剣術の稽古があるので失礼します」


落ち込んでいる様子も見せない俺の態度が気に食わなかったのだろう。ジークはまだ突っかかってくる。


「ずいぶんと余裕だな。まだ自分がアトレイディスだと思っているのか? 五元素は愚か、適性なしの貴族なんて家の汚点でしかない。お前はそのうちどこかに売り飛ばされるだろうな」


「父上はそんなことしません。では失礼します」


「ハッ、どうだか。せいぜい今のうちに、残り少ない貴族生活を満喫しておけばいいさ」


立ち去る俺の背に、ジークはそう吐き捨てるように言い放つ。


実際のところ、ジークの言うことは間違ってはいない……


貴族とはメンツを重んじる生き物だ、父も俺が適性なしであることをできるだけ隠そうとしていた。


いらないと判断されれば、勘当されてどこかの貴族の使用人として売り飛ばされたり、最悪はそのまま屋敷から放り出されるかもしれない。


しかし、アトレイディス辺境伯領は魔王領との国境に位置している。戦力はいくらあってもいいだろう。戦場で役に立つことを証明できれば何とかなる……と言っても戦場でも役に立つのは、やはり魔法だ。


一対一の勝負であれば剣術が有利だ。魔法の発動にはラグがある、接近戦に持ち込めば勝てるだろう。

しかし、戦争となれば個人の剣術などあってないようなもの。戦場のほとんどは遠距離攻撃魔法の応酬による物量戦だ。


そうなれば生半可な剣術じゃダメだ。戦場でも役に立つことを示さなければ……


そんなことを考えながら屋敷の外に向かって歩いていると綺麗な金髪をした女性が歩いてきた。母のマーシャだ。


「母上。おはようございます」


「………」


無視である。すれ違いざまに冷めた目で俺を一瞥して、スタスタと遠ざかって行く。俺には興味もないのだろう。俺が適性なしと分かる前からこんな感じである。兄のジークに対してはそんな態度ではないのだが……まあいい、いつものことだからもう慣れている……


中庭に出て練習用の木剣を素振りする。剣術を真剣に鍛錬する貴族は少ない、どちらかと言えば魔法を磨くからだ。剣術の鍛錬をするのは最前線で戦う騎士くらいだろう。


「よう、坊主。今日もやってるな」


日課の鍛錬をしていると背後から声をかけられた。


「ギル伯父さん! 戻ってたの!?」


「ああ。チェスターに呼ばれてな」


この男は、父の兄のギルバート。アトレイディス騎士団の団長である。


本来ならばこの人が家督を継ぐはずなのだが、向いてないという理由で自ら辞退して騎士団に身を置いている。この人も火属性魔法の使い手で、帝国でも随一の実力者だ。剣術だけで言えば帝国一だろう。


普段は国境付近の駐屯地にいるのだが、たまに屋敷に顔を出しては俺に剣術を教えてくれていた。


「チェスターのやつ、兄貴を呼び出しておきながら、もうちょっと待っていろとかぬかしやがる。暇だからフレイ、俺の相手をしろ。成長したか見てやるよ」


「お願いします!」


帝国一の騎士と直接手合わせできるとは恵まれている。もちろん手も足も出ないのだが、この手合わせだけで普段一人でやっている鍛錬とは比べ物にならないほど成長できるだろう。


俺は下段に木剣を構えて腰を落とす。対するギルバートは木剣を肩に担ぎ、だらっとした姿勢で俺がしかけるのを待っている。どこからどう見ても隙だらけなのだが……


全身の筋肉を、バネのように使って一足で間合いを詰める。大人と子供だ、リーチが違いすぎる。懐に入らなければ一撃も与えられないだろう。


間合いに入った瞬間、水平に剣を薙ぎ払う。


しかし、眼前でそれは弾かれる。そのまま反動を利用して一気に後方に飛びずさる。


ギルバートを見ると右手で木剣の柄を逆手で持ち、切っ先を地面に向け、体の前でただ持っているだけだった……


剣術の構えでもなんでもない。俺の全力など剣術を使うまでもないらしい。そりゃそうか……ギル伯父さんからすれば、文字通り子供の相手をしているだけだ。


「間合いの詰め方は良かったな! ただ剣速と力が足りない。まあまだ6歳だ、鍛えればいい。次は俺から行くぞ?」


そう言ってギルバートは木剣を上段から振り下ろす。俺は慌てて木剣を両手持ちにしてそれを防ごうとする。いや、ちょっと威力が高すぎませんか? そのまま振り下ろされたら木剣ごと脳天カチ割られそうなんですが!?


木剣を構えたまま、「あ、死んだ」と思った瞬間……脇腹にコツンと木剣の感触が伝わる。……あれ?


「今のがフェイントな。上段に攻撃が来ると思ってガードを上げただろ? そしたら中段がガラ空きだ。剣術ってのは力や速さだけじゃ一流にはなれない、駆け引きってやつも大事なんだ。覚えとけよ?」


「はい! ギル伯父さん」


なるほど、さすが。最前線の騎士である。この人から学ぶことは多そうだ。


しかし、あれはフェイント……なのか? あの威力の剣戟を防げる人はいるのだろうか? フェイントなど必要ないのでは……? そのあとの剣筋も見えなかったし……あの威力と剣速をもってしても駆け引きが必要な相手がいるということか。


その後も何度か打ち合いをして様々なことを教えてもらった。


「それじゃあそろそろチェスターのところに行ってくるか。坊主ももう今日は剣術の鍛錬は終わりにしとけ? 休息も大事だからな」


「わかりました! ありがとうございました!」




そうして俺は汗を洗い流して自室へ戻った。疲れて果てて部屋に戻った俺は、すぐにベットに突っ伏した。


顔を上げて部屋中を見れば、あちらこちらに物やゴミが散乱している……いわゆる汚部屋というやつだ。俺は掃除が苦手なのだ。


本来ならば屋敷の使用人たちが部屋の掃除をしてくれるのだが、屋敷中に俺が適性なしだといううわさが知れ渡り、使用人からも俺は軽視されていた。父と一緒にいるところではそれなりの対応なのだが、父の目がないところでは貴族のお坊ちゃんっぽい扱いは受けられなかった。


「部屋が汚すぎる、そろそろ掃除でもするか? やるとなったら徹底的にだ!」


そう決心し、ベットから起きあが……れなかった。今日の鍛錬で疲れて動く気力が湧いてこない。


しかし、一度気になってしまったら放っておけない……その辺に脱ぎ散らかしてある服が気になる。とりあえずベッドに寝ころんだまま無属性魔法で届く範囲の服を、その辺にあった手ごろなカゴに放り投げていく。ついでにゴミ箱にゴミも放り投げ。服が入ったカゴを部屋の扉方面に放り投げる。


ここからではドアノブまで魔法は届かない。ドアを開けて廊下に放り出したい。


そう思ってドアノブに集中する。


もうちょっとだ、届け!


そう念じるとドアノブがガチャリと回り扉が開かれる……


「フレイアスト様。お食事の時間です」


もうそんな時間か、部屋の掃除は食事のあとにするか。


扉を開けたのはメイドだった。ベッドから起き上がりながら俺はメイドに向かって言う。


「そのカゴにまとめた衣類を洗濯に出しておいてくれ。あと掃除用具一式を部屋に置いておいてくれ」


「かしこまりました」


そう言って頭を下げるメイドだが、掃除をするつもりはないようだ……


まあいいそれより晩飯だ。今日は伯父さんが来ていたし食事も一緒かもしれない。そう考えながら食卓へ向かう。


食卓にはギル伯父さんの姿はなかった……少し残念だ。父と母と兄と俺。いつもの食卓だ。


俺が食事の半分に手を付けたところで父が言う。


「フレイアスト。お前は来週からギルバートに剣術の稽古をつけてもらえ。ギルバートは来週から屋敷に戻ってる」


やった! これでギル伯父さんと毎日稽古ができる!


「父上! 私には? 無適性のフレイよりも私に鍛錬を!」


ジークハルトが驚きと焦りのこもった声で口をはさんできた。


「無論、お前にも剣術の師はつける。領内から剣術指南役を手配する。しかし、お前は魔法の才がある、適性を磨け」


「ですが! なぜフレイの師が帝国一の騎士のギルバート様なのですか? それならば私の方が相応しいはずです!」


「私とギルバートでそう決めた」


「ですが! こいつは適性なしですよ? それより水属性の適性がある私にギルバート様の教えを」


「くどい! お前ではギルバートの鍛錬についてはいけまい。この話はここまでだ」


そう言って食事を終えた父は部屋から立ち去る。


母はこのやり取りを黙って見ているだけだった。


兄は俺を睨みつけていた。


俺は目をそらしてデザートのプリンを一口。


いつもより美味い!


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