孤立≠孤独
毎日19時頃投稿予定です。
学園での俺の「はみ出し者」としての日常は続いていたが、その中でアストリアとの接触機会は、ごく自然に増えていった。それは、互いに他に近づく者がいない、ある種の必然でもあった。
昼食時、食堂の隅にある特別聴講生が集まるテーブル。アストリアはいつも俺の隣に座っていた。互いに積極的に会話を交わすことは少ないが、沈黙が苦痛なわけでもなかった。ある日、俺は口火を切ってみた。
「授業、どうだった?」
アストリアは顔を上げず、皿の上のシチューをスプーンでかき混ぜるだけだった。
「……いつも通り」
短い返事だったが、その声は以前より少しだけ柔らかく感じられた。俺はそれ以上深入りせず、また静かに食事を再開した。しかし、この程度のやり取りが、俺たちの間ではすでに「会話」として成立していた。
移動教室の合間も、自然と彼女と並んで歩くことが増えた。廊下は貴族の生徒たちの群れで賑わっているが、彼らは俺たちの存在を避けるように、あるいは無視するように道を空ける。結果として、俺とアストリアの間には、いつもわずかな空間が生まれ、二人で歩くことが当たり前になっていた。視線が合うこともあったが、すぐに逸らされる。だが、その一瞬の視線の中に、微かな理解や、あるいは共通の孤独のようなものを感じ取ることができた。
最も明確にアストリアの「異常」を感じたのは、やはり魔法実技の補習クラスだった。魔法適性がないとされる俺と同じクラスに、アストリアはいた。彼女は、ごく基本的な光の魔法を、常に最低限の出力で、しかし完璧な精度で発動させた。まるで、そこに込められた魔力が、寸分の狂いもなくコントロールされているかのように。教師も特に指摘することはなかったが、その光は、他の生徒たちが必死に絞り出す不確かな輝きとは明らかに異質な、完成されたものだった。
(彼女はできる。明らかに、この補習クラスにいるべき人間じゃない。魔力適性がないとされている俺と、そうではない彼女。なのに、なぜ同じ場所にいる?)
俺は彼女の「できるのにやらない」振る舞いを、常に冷静に観察していた。彼女が魔法を発動する際の、一瞬の集中、そしてその直後に訪れる、何かを隠蔽するかのような微かな力の抑制。それが、彼女が特別な存在であることの、何よりの証拠に思えた。
座学の「帝国史」の授業でも、アストリアの特異性は垣間見えた。教師が、原初の争い以降の帝国と魔王領との歴史的な対立について、一方的な帝国の正当性を語っている時だった。教師の言葉に合わせて教科書をなぞっていたアストリアが、ある一文でピタリと動きを止めた。彼女の眉が、わずかに、しかしはっきりとひそめられる。そして、消え入りそうなほど小さな声で、無意識のうちに呟いた。
「……違う。これが帝国の歴史か……」
その言葉は、すぐに彼女自身の口元で塞がれ、表情は元の無感情なものに戻った。周囲の貴族生徒たちは教師の言葉に頷いているだけなので、誰も彼女の変化には気づかない。しかし、俺だけが、その一瞬の変化を見逃さなかった。帝国が隠蔽しているらしい古い記録や、魔王領側の歴史解釈について、彼女が何かを知っているような素振り。それは、彼女の記憶に、一般には知られていない真実が隠されていることを示唆していた。
俺は、アストリアが何か深い秘密を抱えていることを確信していた。それは、彼女が「魔法を隠している」ことと、歴史に対する「別の知識を持っている」という二つの点から明らかだった。
食堂で、あるいは移動教室の合間で、俺は機会を見つけては、彼女の記憶を探るような言葉を投げかけた。
「なぁ、リア。何か、ヒントくれない?」とか「君のこと、少しでもいいから教えてくれないか?」とか……。
しかし、アストリアはいつも、最初はその問いを避けるように視線を逸らした。特に、リア呼びすると怒られる……。
そして、短い「知らない」という返事で、冷たくあしらわれるのが常だ。
だが、俺がしつこく問いかけると、彼女は時折、ふと寂しそうな表情を浮かべたり、どこか遠くを見るような瞳になったりする。
その表情の変化は、まるで深い悲しみを湛えた湖面に、一瞬だけ波紋が広がるかのようだった。
彼女の口から直接的な情報は語られない。
しかし、彼女もまた、この学園で、そしてこの世界で、何かと戦っているのだと。そして、その戦いが、俺が追う「真実」と無関係ではないと直感していた。
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