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ユーグライト家のご令嬢

毎日19時頃投稿予定です。

学園生活が始まって数日が経ち、俺は授業の合間や放課後の時間を、ほとんど図書館で過ごしていた。


この世界の魔法理論や歴史、古文書を読み漁る。前世の知識を活かし、既存の理論の矛盾点や未解明な部分を探し出すことが、今の俺の主な目的だった。


ある日の午後、いつものように図書館へ向かう途中、入口付近で一人の女生徒とすれ違った。


ユーグライト家のセレスティア嬢だ。


彼女は、分厚い歴史書を抱え、うつむき加減で歩いていた。貴族の生徒がまとう華やかな制服を着ているはずなのに、彼女の周りだけは、他の学生たちの賑わいから一歩引いた、静かで透明な空気が漂っているようだった。


彼女の制服は、刺繍や装飾が目立たないように、控えめに整えられているように見えた。


(ユーグライト家……確か、そこそこ格式のある貴族だったはず。そして彼女の制服の襟元にある紋章は、二年を示すものだった。上級生である彼女が、なぜあんなにも目立たないように振る舞う? 周囲の貴族生徒たちも、まるで彼女が存在しないかのように振る舞っている。まるで、俺たち「はみ出し者」と同じような、いや、それ以上の孤立感をまとっているように見える)


別の日のことだった。図書館での調査を終え、廊下を歩いていた俺は、偶然、廊下の死角で立ち止まる数人の貴族の女生徒たちを目撃した。


彼女たちは楽しげに会話しているように見えたが、その視線の先には、壁際に立つセレスティアの姿があった。


「ねえ、ユーグライトのご令嬢って、まだ学園にいたのね。本当に驚くわ」

「ええ、そうね、あんな落ちこぼれ家柄にかまけているだけでは? ユーリ生徒会長はどう思ってらっしゃるのかしら」


彼女たちは直接セレスティアに話しかけることはしない。


しかし、冷たい視線や、嘲るような笑みを交わしながら、わざと聞こえるように陰口を叩いていた。


セレスティアはただ、身を縮めるようにして俯いているだけだった。その細い肩が、微かに震えているように見えた。


(彼女もまた、この学園の「壁」の犠牲者か。俺が魔法適性がないことで異端視されるように、彼女もまた何らかの理由で冷遇されている。しかも、上級生でありながらこれほどの孤立とは。貴族社会の陰湿な部分を目の当たりにした気分だ。しかし、彼女は何に耐えているんだ? なぜ、彼らがそこまでして彼女を貶めようとする?)


俺は彼女たちの存在に気づかれないように、その場を通り過ぎた。言葉を交わすことはなかったが、セレスティアの境遇に、どこか自身と重なるものを感じた。


彼女への静かな好奇心が、俺の胸に芽生え始めていた。


昼休み、人気のない中庭のベンチで一人本を読んでいるセレスティアを見かけることもあった。


学園の生徒たちが賑やかに過ごす中庭で、彼女の周りだけ、まるで時間の流れが違うかのように静寂が広がっているかのようだった。


この時点では、俺とセレスティアの間には何の会話もない。


ただ、互いが学園という閉鎖的な空間の中で、目に見えない壁に阻まれ、孤立している「はみ出し者」であるという認識だけが、俺の心の中にあった。そして、彼女の内に秘められた「何か」が、俺の探究心を微かに刺激し始めていた。

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