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アストリアの憂鬱

毎日19時頃投稿予定です。

オリエンテーションが終わり、慣れない学園の一日を終えて女子寮の自室に戻る。


与えられた部屋は簡素で、最低限の家具しかない。だが、それがかえって私の心境に合っているようにも感じられた。


部屋の隅にある小さな机に腰を下ろし、窓の外に広がる夕焼けをぼんやりと眺める。まだ完全に日の落ちていない空は、学園の華やかさとは裏腹に、どこか憂鬱な色をしていた。


あの日、帝国の学園に入学しろと告げて来た父の感情を読めない飄々とした姿が、未だにまぶたの裏に焼き付いている。


「くそおやじ」


私を一方的にこの地に送り込み、具体的な指示も与えず、娘である私を、まるで偵察兵のように扱う。


腹立たしかった。


確かに父の命令には逆らえないが、彼の思惑が読めない。


私には知らされない計画があるのか。その漠然とした不安が、胸の奥底に重く沈んでいる。


そして、フレイ……。


この学園で彼に会った。……私を覚えていない彼に。


カイン皇子に不愉快な形で絡まれた時、私は無意識のうちにフレイの近くに移動していた。


あの男の傲慢で、すべてを支配しようとする視線は、どこか父と似たようなものを感じさせる。


そんな彼から逃れるように、過去を知る唯一の、しかし何も思い出せない存在であるフレイの傍へ。


我ながら、情けない行動だった。


「アストリアさん。……いや、リア、でいいか?」


あの時の彼の声が、今も耳に残っている。懐かしくて、胸の奥がじんわりと温かくなるような響き。


でも、同時に痛かった。


「忘れているくせに、今更そう呼ばないでよ」


冷たく突き放してしまったけれど、本当は彼の口からその名を聞けたことが、少しだけ嬉しかったのだ。


彼は必死に、過去を思い出そうとしていた。五歳より前の記憶が曖昧だと。


仕方ないのかもしれないけど私だけ覚えているのは少し癪だ。


「教えてあげない。フレイが自分で思い出すまで、許さないから」


なんとも子供っぽいセリフを吐いたものだ。


彼がこの学園にいるなど思いもよらなかった。フレイだと気が付いた時はうれしかったが、忘れられていたことにショックを受けた。


彼とどう付き合っていけばいいのやら……。

私の真実を伝えてもいいのだろうか……。


窓の外は、すっかり夜の帳に包まれていた。これから始まる学園生活は、父の命令を果たすための単なる任務ではない。


記憶を失ったフレイが隣にいる。彼が私を思い出す日が来るのだろうか。それまで、私はこの場所で、何を探し、どう生きればいいのだろう。


重い溜息が、静かな部屋に溶けていった。

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