予感
毎日19時頃投稿予定です。
講堂を出ると、生徒たちは各々グループを形成し始めた。貴族たちは自然と家柄や派閥で固まっていく。魔法適性を持つ者、家が近い者。無意識のうちに線引きがなされ、気づけば俺のような”特別聴講生”の制服を着た者たちは、白い目で見られ、隅に追いやられていた。
そして、その残りのスペースに、当然のようにアストリアが立っている。彼女もまた、周囲から避けられているようだ。まるで当たり前のように、俺たち”はみ出し者”のグループが形成される。はぁ、と内心でため息をつく。
ツアーが始まった。案内役は上級生の生徒たちだ。その中に、ひときわ目立たないように振る舞う、年の近い貴族の少女がいた。彼女は顔を伏せがちで、他の案内役たちが学園の輝かしい側面を強調する間も、どこか自信なさげに、しかし丁寧に説明を続けていた。
彼女は確か、ユーグライト家の令嬢だった気が。サンの情報では名門貴族であるが五元素の適性を持たないと……。
「……こちらは、学園の図書館です。収蔵されている書物の数は、帝国でも随一を誇ります。魔法に関する古文書から、歴史、文学……あらゆる知識が集約されています。特に、魔導書保管庫は、許可された者のみが入室できますが……」
最初の施設、図書館の説明を受けている時だった。
俺たちのグループの前に、第一皇子カインのグループが、まるで道を示すかのように立ちふさがった。カインは貴族の取り巻きを従え、傲慢な笑みを浮かべていた。その視線は、まっすぐにアストリアに向けられる。
「銀髪の。このような隅のグループにいるのは惜しいな。どうだ、私と一緒に回らないか?」
カインは、アストリアをまるで美しい品物でも品定めするかのように、自信満々に誘う。
その言葉には、俺や他の特別聴講生たちへの明確な軽蔑が込められていた。俺はカインの露骨な誘いに嫌悪感を抱きつつ、アストリアの反応を窺う。他の特別聴講生たちは、皇子からの誘いに驚きと羨望、あるいは畏怖の視線をアストリアに送っていた。
アストリアは、カインの言葉に表情一つ変えず、冷めた視線を返す。
「不要よ。私はここにいる方が良い」
カインの顔から傲慢な笑みは消えるものの、苛立ちを露わにすることはない。むしろ、アストリアの拒否すらも、彼女の”高嶺の花”としての価値を高めるかのように受け止めているようだった。彼はアストリアをじっと見つめ、その口元に薄く、しかし確信に満ちた笑みを浮かべた。
「まあ良い。いずれ君は私のものだ」
誰にともなく呟くようにそう言う。カインはそれ以上何も言わず、自身のグループを引き連れ、次の施設へと歩を進めていった。
その間、案内役の少女は一歩後ろに下がり、自身の存在を消すように息を潜めていた。顔は青ざめ、カインとアストリアのやり取りから目をそらし、ただ震えるように自分の役割を終えるのを待っているようだった。
カインの視線から解放されると、アストリアは他の特別聴講生たちに紛れるように、無言で俺の近くへと移動した。その横顔は、わずかに不機嫌そうに見えた。忘れられていることに、内心では拗ねているのだろう。この機会を逃すわけにはいかない。
「アストリアさん。……いや、リア、でいいか?」
俺は恐る恐る、だが記憶の手がかりを探るように声をかけた。彼女の反応を注意深く窺う。
アストリアは一瞬、ぴくりと反応したものの、すぐに表情を戻し、口を開いた。
「……忘れているくせに、今更、そう呼ばないでよ」
冷ややかな声だった。やはり拗ねている。だが、ここで引くわけにはいかない。
「本当に、すまない。だが、どうしても思い出せないんだ。俺は、五歳より前の記憶が曖昧で……。もしよければ、何か、ヒントになるようなことを教えてくれないか?」
俺は必死に頼み込んだ。彼女の銀髪、その表情、声の響き……どれも微かな既視感を覚えるのに、肝心な記憶が繋がらない。この苛立ちを、どうにかして彼女に伝えたい。
アストリアは、短い沈黙の後、無表情のまま俺を見据えた。
オリエンテーションが終わった時、俺の”影のように過ごす”という目標は、初日で完全に打ち砕かれたと悟った。
皇子カインの存在により、さらに困難な状況に置かれることを予感する。
アストリアの謎と、彼女に向けられた皇子カインの執着、そして今後の妨害の可能性が、俺の頭から離れなかった。
カインが直接妨害しなかった分、その余裕と確信が、かえって不気味に感じられた。
学園生活は、単なる勉強の場ではなく、複雑な人間関係と権力闘争の舞台であると、改めて認識した。
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