合否の裏側
毎日19時頃投稿予定です。
「次に問題の彼ですが……」
帝立学園の一室。重厚な木製のテーブルを囲むように、試験管を務めた者や学園の教師たちが座っていた。窓から差し込む午後の光は、室内に舞う埃を照らし出し、どこか澱んだ空気を強調しているかのようだ。誰もが硬い表情を浮かべ、わずかに口角が下がった者もいれば、腕を組み沈黙している者もいる。資料をめくるかすかな音と、時折響く咳払いが、張り詰めた静寂を一層際立たせていた。
「実技試験は最低点ですね。魔法実技は五元素の適性がないのでそもそも0点です。剣術試験に於いては目覚ましい身体能力を発揮しておりましたが、戦争となるとどれだけ個人の力が及ぶか……」
「そうですな。筆記試験の結果は?」
「はい。筆記試験も最低点ですね」
「なんと」
その言葉に、会議室にはさらに重い空気が満ちた。何人かの教師が顔を見合わせ、深いため息が漏れる。
「数学については最終的な解は全て正しいのですが、そこに至るまでの過程が、少々飛躍しすぎていたり、ところどころ理解不能な解法が使われていたため0点です」
「歴史は?」
「歴史については……。全く理解が出来ません。文章量は多く、一見理路整然としているのですが。RNA仮説? なるものや、進化論、地動説など、独自の考えで回答していたり、帝国の起源と魔法の適性を無理やり論理的に説明しようとしており、皇帝の血統については一切触れておりません。少し危険な思想を持っている可能性もあります……」
報告を聞く者たちの表情が、一層険しくなる。中には、不快そうに顔を歪める者もいた。
「な、なるほど……魔法論理は?」
「魔法論理については一切理解できません……。ソウタイセイリロンやリョウシリキガクといった言葉が根底にあるようですが……」
「それで? 結果、筆記試験の合計点は?」
「0点です」
「はぁ……どうしたものか……」
試験管の一人が、額を手のひらで押さえ、深くうなだれた。その肩からは、いかにこの案件が厄介であるかが滲み出ている。
「彼がアトレイディス家でなければ文句なしの不合格なのですが……」
「当の辺境伯からも圧力がかけられているのであろう?」
「そうですね……」
その言葉に、会議室の空気はさらに冷え込んだ。名門貴族からの「圧力」という、表には出せない現実が、この部屋の隅々にまで染み渡っている。何人かは天井を見上げ、あるいは机の木目をじっと見つめていた。
「少しよろしいですか?」
沈黙を破り、歴史学の教鞭をとる老齢の教師が、静かに口を開いた。彼の発言に、ざわめきこそなかったものの、周囲の視線が一斉に集まる。
「どうぞ」
「歴史学の教鞭をとっている私の身からすると、彼の歴史の試験の解答には一考の余地があると考えております。それに実技試験でも身体能力は証明されており、数学に至っては回答のみ見れば満点。小論文については一見理解不能に見えますが極めて論理的な部分が見受けられます」
「つまり?」
「将来性を考えて、補欠合格というのでどうでしょうか?」
「ふむ。確かに結果は最低点だが才能を買ったと称すれば無理やりでも押し通せるか……」
「家柄を考慮して今回は特例といたしましょう」
「そうですな……」
重苦しかった会議室に、わずかながら安堵の空気が流れた。誰もが早くこの厄介な議題から解放されたい、といった様子だった。
「次は……」
「第一皇子陛下ですな。こちらは文句なしの合格です。全てに於いて最高得点です」
「ジークハルト殿以来の快挙ですな」
「はぁ……同じアトレイディス家でこうも差が出るとは……」
「発言には気を付けたほうがよろしいかと……どこに目があるかわかりませんぞ」
「おっと。今のは聞かなかったことにしていただきたい。陛下は合格ということで、次は?」
「こちらの彼女も少し特殊でして……実技試験の成績は低いのですが、筆記試験は満点です」
「なるほど……判断が難しいですな。……ん? この特記事項は……」
「お気づきになりましたか?」
「彼女も合格でよろしいかと……」
「そうですな……」
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