入学試験 一日目
いよいよ入試だ。
俺に同行した母は案の定、いろんな人に捕まり、それでも笑顔を振りまき続けている。
サンは母の後ろに控えて、時折、母に耳打ちをしている様子が見受けられる。
たぶん、挨拶に来た相手の情報を伝えているのだろう。
すでに情報収集は進んでいる様子だ。
ただ、裏で俺がつながっていることがバレなければいいが……。
少々言動が怪しい時がある。後でしっかり言っておくか。
それはそうとして、いま俺の最優先事項は入試だ。
入学試験は二日に分けて行われる。
一日目は、実技テスト。魔法の実技と剣術の実技がある。
休戦状態にあるとはいえ、魔王領との戦争は継続中だ。それが学園のカリキュラムにも表れており、実践的な訓練がカリキュラムに含まれている。
戦時下になければ実技テストはそこまで重きを置かれないかもしれないが、あいにく今は戦時下だ。
適性なしとされている俺がどれだけ立ち回れるか……。
ただ、剣術には自信がある。帝国最強の一角のギル伯父さんのお墨付きだ。
そう考えるとだんだん入試がちょろく感じられてきた。名門校だからとびびっていたが、意外と余裕なのでは?
周囲はざわめきと期待に満ちていた。受験生たちの緊張した息遣い、時折漏れる不安げな囁き、そして付き添いの貴族たちの格式ばった会話が入り混じり、一種独特の喧騒を生み出している。それぞれの顔には、期待、不安、そして何よりも「合格」への強い意志が浮かんでいた。
「カナティオ帝立学園の入試を受ける者は集まれ! これから本日の試験内容を発表する」
試験管の一人と思われる男が声を上げる。その声は、広大な試験会場に響き渡り、一瞬にしてそれまでの喧騒を鎮め、全員の視線を一点に集めた。張り詰めた静寂が訪れる。
皆一様に静かになり、耳を傾ける。
ざっと見渡すと、皆、仕立てのいい服を着ており。貴族家に名を連ねるものばかりであろうことが分かる。
数年前から平民に対して、特別聴講生という枠が設けられるようになったことは知っている。それは実技を問うものではなく、緑魔法の研究という側面が強いと聞いている。
だからこの場には平民はいない。いたとしてもジークの婚約者のような五元素の適性を持つ超例外だけだろう。
「まずは、魔法実技の試験から行う。五元素のどれでもいい、自分の得意な魔法で最高威力を出せ」
これが一番の問題だ。貴族はほぼ例外なく五元素の適性を持っている。だからその威力を測られるのは当然だ。
戦争になると遠距離からの高威力魔法が主だ、帝国の有する高威力魔法は五元素がほとんど、だから単純に威力で優劣が決まる。
そして俺は五元素のどれも適性を持たない。発動自体は出来るが攻撃とは言えないほどの威力しか出せない。
だからここはもう捨てている。剣術試験で満点を取れば合格ラインに届くはずだ。
「順番に試験していくから列に並べ」
指示通り、いくつかの列が出来上がった。
「それでは、はじめ!」
ドオォーン…
いたるところで魔法による衝撃音が聞こえてくる。
「はぁ……」
こんな状況だ、ため息も出る。
「次!」
俺の番だ。棄権出来たらいいのだがそういうわけにもいかない。
俺は左手を伸ばして火属性魔法を使う。
シュボッ…
人差し指の先からライターくらいの火が出る。
「ん? どうした?」
試験管は俺の方を向いて怪訝そうな表情を向けて聞いてきた。
「以上です」
「以上? それで終わりか?」
「はい……」
「そのちっぽけな火で?」
「はい……」
「適性は?」
闇属性は黙っておくとしても、適性なしではさすがに試験を乗り越えられないだろう。
「無属性適性です」
試験管は眉をひそめた。
「無属性だと? そんなものは聞いたことがないぞ、名前は?」
家名で乗り切るか……
「フレイアスト……アトレイディス家です」
「……そ、そうか。一応言っておくがまじめにやったほうがいいぞ?」
どうやら舐めていると捉えられたらしい。
「まじめです」
「……この記録でいいのだな?」
「はい。一応無属性の適性とだけ」
「……わかった。次!」
まあいい。本命は剣術だ。
俺は振り返りその場を後にしようとする。
ドゴオォォン!
な、なんだ!? 後ろから熱風とともに爆音が聞こえてきて思わず振り返る。
「つ、次……」
どうやら俺の次の奴がとんでもない威力の火属性魔法を放ったようだ。
その魔法を放った人物。金髪碧眼の美少年は俺のほうに歩いてきて
「アトレイディスか。調子に乗るなよ?」
そう一言だけ言って立ち去っていく。
「……なんだあいつ」
「帝国の第一皇子です」
「うおっ!」
突然隣から返事が帰って来て驚く。
「……サンか」
「はい」
「ん? 母上は?」
「帝都のお屋敷へお戻りになりました」
「……ついていなくていいのか?」
「お疲れのご様子で、今日は部屋から出ないとおっしゃられたのでこちらに」
「そうか」
それにしても。今のが帝国の第一皇子……。
「お次は剣術試験ですね。自信のほどは?」
「ああ、剣術なら自信がある」
「そうですか。魔法試験ではほぼ評価はないでしょう。剣術で満点を取らなければ実技で落ちると思われます」
「言われなくてもわかってるよ」
事実だから仕方ないが、改めて他人から言われると焦りを覚える。
「剣術の試験会場はあちらです」
「ああ、ありがとう。ちなみに……、確認するけど、サンはLPの……」
「はい、そうです。ロデア三号機です」
「そうか。それじゃあ、あとは好きに動いていいぞ、俺についてくる必要はないからな。変な言動で俺とのつながりがバレるようなことがないようにな」
「かしこまりました。情報を収集してまいります」
サンはそう言って人込みの中に消えていった。
ふう、まさか母上の前でLPとのつながりを明かすようなことを言い出すとは思わなかったが……。
念を押したからこれで大丈夫……か?
それよりも目の前のことに集中しよう。次はいよいよ剣術試験だ。
試験内容は試験管との剣のみでの個人戦。
純粋な身体能力や戦闘のセンスを測るものだと予想する。
試験管に圧倒的に勝って力を証明してやる。魔法だけがすべてではないことを。
「次!」
よし、俺の番だ。
「よろしくお願いします」
俺は木剣を下段に構え、いつものように重心を落とした姿勢を取る。
相手との距離は近い。試験管は力量を測るために様子見をしてくるだろう。
……だったら。
「始め!」
シュッ!
「なッ!……」
一瞬で間合いを詰めて試験管の首筋に木剣を沿わす。一撃必殺を狙えばいい、こんな簡単な戦いがあるとは思えないが試験という目的を逆手に取った、これも戦術だろう。
「そ、そこまで!」
まあこんなもんかな。
不意打ちみたいではあるが、圧倒的というのを演出できたのではないだろうか。
「ありがとうございました」
こうして一日目の実技試験は終わった。
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