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マーシャの目算

毎日19時頃投稿予定です。

「あの子、本当にチェスターに似ているわね」


「フレイアスト様ですか?」


「……いえ、今のは独り言。気にしないで」


わたしは、ジークが卒業したから仕方なく一時的に屋敷に戻っていた。滞在は最小限に留めるつもりだった。辺境伯夫人の務めは果たしつつも、この屋敷の重苦しい空気に長く浸るのは耐えられなかったからだ。


やはり辺境だ。帝都と比べて華やかさがまったく感じられない。流行のドレスを身につけた淑女たちの囁きも、煌びやかな舞踏会の音楽もない。ただ森の風が窓を叩く音と、使用人たちの規則的な足音だけが響く。


ただ、先程話しかけてきたメイド。彼女に出会えたのは嬉しい誤算だった。


新人ながら仕事が出来て、ベテランならではのなれなれしさがなく、何より綺麗だった。傍に置いておいて恥ずかしくない。


だから、もう一度帝都に戻る際にも連れて行こうと考えている。


「どうぞ」


スッと差し出されたカップからは、湯気とともに芳醇な紅茶の香りが立ち上る。メイドの手つきは寸分の狂いもなく、完璧だった。


紅茶に手を付けつつ考える。


それにしても、フレイアスト。あの子が戻って来たことには驚いた。


魔王領から単身で帰還したと言ったことにはさらに驚いた。


まるで、まだわたしが愛していた時のチェスターと同じ。


どこか雰囲気が似ているとは思っていたけど、失踪して、魔王領から一人で帰ってくるところまで同じなんて……。わたしへの当てつけ?


「……はぁ。あなた、フレイストをどう思う?」


カップをソーサーに置く音が、やけに大きく響いた気がした。


「……私に聞かれましても。お答えすることは難しいです」


「いいわ。なんでも言って。わたしの前であの子の悪口を言っても咎めないから」


「そうですか。では、率直に申し上げますと、フレイアスト様は特別な人間であると私どもは認識しています」


「と言うと?」


「……これ以上は申し上げることが難しいです」


「……あの適性なしの子が、特別ですって? 笑える冗談ですこと」


……ん? 私ども?


「他のメイドもそう思っているということ?」


「いえ、失礼いたしました。今のは間違いです。お気になさらないで下さい」


「そうよね」


屋敷の使用人たちはフレイアストを異質とは思っていても特別とは思ってはいないでしょう。


それにしてもこの子……表情からは何も読めないわね。……まるで精巧な人形のよう。


「あなた、名前は?」


「参号機です」


「サンゴウキ? 変わった名前ね」


「そうでしょうか? 簡潔に表されたシステマチックな名前だと思いますが」


「……変わってるわね。今からあなたの名前はサンよ。いい、サンよ。分かったら返事をしなさい、サン」


「どうぞ、ご自由にお呼び下さい」


「……そう」


わざと高圧的に接してみたけれど顔色一つ変えない。そこが彼女を気に入っている理由でもあるのだけれど……。


サンの中に、どこか自分と通じるものを感じているのかもしれない……。


「サン。私は帝都に戻るわ。あなたも付いてきなさい」


「はい。承知しております」


承知しております? 今言ったばかりだけど?


この子、たまに言葉が変ね……。まあ完璧すぎるよりもそれくらいの方がいいわ。


「まあいいわ。準備よろしく」


「はい。かしこまりました。明日一度、帝都に向かう予定がございます」


「はい? 聞いていないわ」


「はい、奥様の考えに即した最適な行動だと判断いたしましたので、独断で決めさせていただきました」


「どういうこと? わたしは帝都に何のために向かうの?」


「フレイアスト様の入試に同行していただきます」


「はい!? それがなんのためになるというの?」


「奥様がフレイアスト様を自分のお子様と認知していないことは承知済みです」


「……」


「しかし、対外的にはしっかりとフレイアスト様のことを想っているということをアピールすることは重要です。これにより、フレイアスト様が帝立学園に入学した際に奥様も同行して帝都に出るということに違和感がなくなります。ジークハルト様の時にそうしたようにフレイアスト様にも同じように接して下さい」


なるほど、わたしがフレイアストに対して公の場では親として振舞えば、世間はわたしの評価を上げる、と。


そして、フレイアストの入学がスムーズになる。これでわたしが再び帝都の屋敷に行っても不自然ではなくなるわね。


いいわ。やはりこのメイドは使えるわ。


「わかったわ。わたしのために仕方なくね」


「はい。それでよろしいかと」


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ちょっとでも続きが気になると思っていただけたら是非お願いします!


参号機というのかい。贅沢な名だね。

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