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父の真意

毎日19時頃投稿予定です。

知っている!?


やはり父は俺に闇属性の適性があることを知っていて隠していた。


「適性検査の時に気が付いていたのですか?」


「ああ、そうだ」


やはり……。だが、隠すのは当たり前か。


「僕の母は……」


「……魔族だ」


「……」


「すまなかったな、隠していて」


「いえ……母はこのことを?」


「マーシャか?」


「はい」


「知らない。彼女はお前が自分の子ではないことは知っているが魔族の血を引くことは知らない。ジークもそうだ」


「そうですか」


ここまでは予想通りだ。だが予想が当たりすぎていて怖い。


……本当に帝国に弓引こうとしているのでは?


「幻滅したか?」


「……いえ。ただ何を考えていらっしゃるのですか?」


「何を考えている、か……。お前の言いたいことは大体予想できる。そのうえで私の答えはこうだ」


ゴクリ…


「お前が息子だから屋敷に置いている」


「……」


つまりは、真相を言うつもりはないと。


無表情を貫いたつもりだが何かしら表情に出ていたか? 父は俺の沈黙を不満と受け取ったようだ。


「……はぁ……そうだろうな。お前が不満に思うのは納得できる。私のせいでお前は不憫な想いをしている。恨んでくれてもかまわない。許せとは言わん。私にできることがあるなら何でも言え。遠慮することはない」


「……はい」


どこまで本音を隠すつもりだ? いつまで? 帝国に反旗を翻す時か?


「お前があの場でしゃべらなかったのはそれだけか?」


くそ。誤魔化しきれないのか? これ以上しゃべることのリスクは? 俺の手元にあるもの、魔族とのつながりや工場のこと。父にその情報を渡すのはリスクしかない、父の手腕ならすぐにでも帝国を揺るがすことのできる最高のカードになる。


「それだけ? 父上はそれだけとおっしゃるのですか!? 僕は魔王領でつらい経験をしました、魔族に溶け込み、貧しい暮らしをしてきました! 貴族の僕がですよ!」


どうだ? 俺はまだ外見的には子供だ。実際にチェスターにとっては息子なのだ、感情的になればこれ以上の追求はないはず。


「そうだな……すまなかった。お前が大人びているからつい……。許してくれ」


行けた……のか? 案外あっさりだ……


「父上。ひとつお願いがあります」


このままたたみかけてしまえ。遠慮することはないと言われたばかりだ。


「なんだ? 言ってみろ」


「僕を帝立学園に入れてください」


「……? 勘違いしているようだな? それは私にできることではない」


「いえ、父上の権力ならできるはずです」


「……本気か?」


「できることがあるなら何でも言えと。父上はそうおっしゃいました」


「……そうか。魔王領で何を経験したのか知らないが、それがお前の選択か……」


「はい」


「……今回だけだ。口利きはしてやる。だがそれで入学できると思うな? ジークが入学出来たのは私の力ではない、ジークの力だ。勘違いしているなら今正せ」


「わかっています。しかし、僕は適性なしですよ? まさか闇属性を使えとはおっしゃいませんよね?」


「……はぁ。誰に似たのやら」


何をいまさら。父上に決まっている。狡猾に裏で動き回っているのは誰だ。俺はそれを利用させてもらうだけだ。


「父上が僕に求めることは?」


これははっきりしておかなくてはならない。俺に何をさせようとしているのか。


「……? 真っ当に生きろ」


その言葉が、執務室の重苦しい空気に響いた。父の表情は相変わらず揺るがず、その瞳の奥は深淵のように一切の感情を読み取らせない。


「わかりました! ……え?」


反射的に答えた直後、その言葉の真意を理解できずに頭の中で疑問符となって膨らむ。真っ当に生きろ? この父が? 裏の裏を読むことばかり考えてきた俺には、その言葉のどこに策略が隠されているのか、皆目見当がつかない。まるで、俺の先を読んで、あえて一切の裏を持たない言葉で惑わそうとしているかのようだ。一瞬、呼吸すら忘れた。


「なんだ? どうかしたか?」


父の声は変わらず冷静で、何事もなかったかのように聞こえる。俺の動揺を見透かしているかのようだ。しかし、そこには以前のような冷徹な響きはなく、むしろ心配するような、あるいは少し困惑したような響きを感じ取れた。


「いえ、なんでもありません……」


「そうか、もういいぞ」


父はそう言って、再び視線を机上の書類へと戻した。まるで、俺という存在が最初からそこにいなかったかのように、あるいは、自分の役割がこれで終わりだと告げられたかのように。そのあまりにも自然で、飾り気のない態度に、俺は言いようのない困惑と、そして微かな違和感を覚えた。



俺は執務室を出て、自室に戻る。


全身から力が抜けるような、深い疲労感が襲ってくる。張り詰めていた緊張の糸が、プツリと切れたかのようだった。


「つかれた」


ベッドに寝ころび、天井の木目をぼんやりと見つめながら、先程のやり取りを思い返す。


父が只者ではないことは気付いていた。しかし、あれほどとは……


全く真意を読めなかった。一度も本音を言っていない。


これが現役の辺境伯と落ちこぼれの差か……。全く力が及ばない。


掌で転がされているだけだ。このままではアトレイディスの力を利用するなどもってのほかだ。


もっと力をつけなければ。それも圧倒的な。


武力だけではない。もっとほかの力が必要だ。たとえば、情報。あるいは、人脈。この帝国で真に力を持つ貴族や商人の動き、軍の現状、魔王軍の狙い。全てが不透明なままでは、手札が少なすぎる。


やはりそういう面では帝立学園に入学するのはマストだ。


帝都にあり、貴族が通う学校だ。もともと帝国貴族としての教育を受ける場だ。


これ以上の学び舎はないだろう。


今の俺は、帝国について何も知らない。


そんな状態で戦争を無くすなど不可能だ。


再び深く息を吸い込み、固く目を閉じる。脳裏には、焼け落ちたリーゼ村の光景が蘇った。あの時の無力感は、もう二度と味わいたくない。父の思惑がどうあれ、俺の道は、俺自身が切り拓く。


「よし」


改めて帝立学園を目指すことを決意する。

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