アトレイディス領への帰還
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「なぁ、あの子は?」
小型ジェットの狭い機内で、俺は隣に座るLPに問いかけた。対面に座るシエナの隣には、人形のような顔立ちの少女が座っていた。金髪のツインテールが特徴的なその少女は、どこか浮世離れした印象を受ける。あれから工場で数日間過ごしたが、彼女は一度も見かけなかった。
「わたし? アンタには関係ないでしょ」
「LP……」
「彼女はミロンです」
俺の問いに、LPが感情のこもらない声で答える。
「え、それだけ?」
「ミロンは私の友達です」
シエナが口を挟む。その言葉に、人形のようだったミロンの顔がわずかにほころんだように見えた。
「そうよ。わたしはシエナの友達。それだけよ」
ミロンは、ぶっきらぼうにそれだけ言って俺から視線を逸らす。
「……はぁ。よろしく」
「別にアンタと仲良くなろうなんて考えてないから。気安く話しかけないでよね」
ミロンの言葉は、まるでどこかの貴族令嬢のようだ。俺は内心で苦笑する。シエナは、そんなミロンの肩に手を置き、優しい声音で諭した。
「ミロン……フレイ君は変な人ですけど悪い人ではないです。仲良くしてあげてください」
「しょ、しょうがないわね。シエナに言われたから仕方なく仲良くしてあげるわ。仕方なくよ!」
シエナとミロンの関係はどうなっているのか……。ミロンの頬が、ほんのわずかに赤らんでいるように見えたのは気のせいだろうか。
「は、はい。ありがとうございます……」
シエナさんの中では俺は変な人で、ミロンにはなぜかきつく当たられる……LPは表情ひとつ変えないし……。この旅は、一筋縄ではいきそうにない。
「なぁLP。お前の今後の方針は?」
退屈しのぎに、俺はLPに尋ねる。無機質な瞳が、俺の目を見つめ返した。
「私はシエナ様とミロンと一緒に神聖国へ向かいます」
「わたしはシエナについていくのよ。LPにじゃないんだから」
ミロンがムッとしたようにLPを睨む。LPはそれにも表情ひとつ変えず淡々と答えた。
「はい。それでかまいません」
「……それで? 何しに行くんだ?」
LPは、まるで最新の報告書を読み上げるかのように、よどみなく言葉を紡ぐ。
「勇者召喚についてと、この星のことでいくつか気になることがありましたので、それを調べに行こうかと」
「ふ~ん。ほんとに俺って勇者召喚の影響でこの星に転生したの?」
「私はそう推測します」
「仮にそうだとして、神聖国はなんで勇者召喚をしたと思う?」
「現状ではなんとも。それも含めて今回調査しようと考えています」
「俺が召喚の対象だったとしたら、神聖国へは勇者が現れなかったことになる。もう一度勇者召喚が行われる可能性は?」
「ゼロではないです。しかし、それなりに時間がかかると予想します」
LPの言葉に、俺は一瞬思考を巡らせる。
……聞いた方が早いか。
「なんで?」
「魔法にエネルギー保存の法則が適用されるならば勇者召喚という魔法はそれなりの魔素を消費するものだと考えます。一方向ではあるものの、超長距離の転移を行うにはタダというわけにはいかないでしょう。それに、神聖国と帝国の間には勇者召喚を禁止する条約が結ばれています。そう何度も行使できるものではないでしょう」
「なるほどね」
物理的な問題と政治的な問題。両方をクリアするにはそれなりに時間がかかって当然か。
「ただ、警戒しておくに越したことはないな」
「そうですね。もし再び勇者召喚が行われるとなると国家間の緊張は高まり、戦争のきっかけとなるでしょう。神聖国の狙いがそれならば、すぐにでも勇者召喚を行うでしょうが、前回から十数年経っていることを考えると、純粋に勇者を召喚することが目的であったと考えます」
「召喚した勇者で何をするかは別としてな」
「はい」
そうこうしていると、窓の外の景色が大きく変化し、目的地に着いたようだ。小型ジェットの高度がゆっくりと下がり始める。
「マスター。これを」
LPが小さな黒い何かの装置らしきものを渡してきた。
「これは?」
「クロガネで加工した通信装置です。ピアスのように耳に装着してください。穴を開けなくてもいいようになっています」
LPの技術力には、何度驚かされても慣れない。新開発の汎用型人工知能がここまでの精度だとは思ってもみなかった。
「へえ」
通信装置を受け取り、左耳に装着する。ひんやりとした感触が耳たぶを包んだ。
「稼働時間は?」
「あの石を加工して作りました。マナバッテリーのように周囲の魔素をエネルギーとして稼働します、よって半永久的に使用可能です。また発信された音声は指向性で、マスターにしか聞こえないようになっています。マイクも同じく指向性ですので小声でしゃべっていただいても十分聞こえます」
「おっけー。あの石から作られているのがなんとなく嫌だけど……まぁ、ありがとう」
あの石。魔王軍幹部ベノクが所持していたクロガネ……。この石は利用されただけなのだが……。
「はい。ちなみに通信衛星をいくつも飛ばしてあるのでどこにいても通信可能です」
「そんなことまでしていたのか……」
「一応いつでも大気圏に突入させて消滅させることも可能です」
「証拠隠滅の方法もすでに考慮済みか……」
「はい。星間文明保持条約を持ち出されても問題はありません」
「バレなきゃ犯罪じゃないって?」
「……バレなければ条約違反ではありません」
「だれに似たんだか……」
「マスターです」
「……」
LPの答えに、俺は言葉を失った。コイツ……正論ばかり言うに飽き足らず、皮肉までも言ってきやがる。
それも悪気がなさそうに、淡々と言ってくるのがさらに憎たらしい……。
「到着いたしました」
俺の心境なんてどこ吹く風というように無表情で続ける。
「はぁ……」
小型ジェットが着陸し、扉が開く。外の風が、機内とは異なる故郷の匂いを運んできた。
「じゃあ、いってくる」
俺は振り返り、三人に告げる。
「はい」
LPはいつも通りだ。
「バイバイ」
シエナが手を振る。無邪気な笑顔だ。
「さっさと行きなさいよね! 魔獣もいるから気を付けるのよ。べ、別にアンタのこと心配してるわけじゃないけど、一応、ね?」
ミロンはどう設計したらこうなったのだろう……。
「は、はい……それじゃあ」
そうして俺を降ろし、小型ジェットはLP達を乗せて離陸していく。空に消えていく機体を見送りながら、俺は大きく息を吸い込んだ。
「ついに帰って来た」
二年くらいか? 魔王領にいたのは。
ルミナに助けられ、リーゼ村の人々に助けられ、今の俺があるのはみんなのおかげだ。
やはり帝国と魔王領の人たちがいがみ合っているのはおかしい。もっと建設的な関係を築くべきだ。戦争なんて無駄なこと、一部の人間が得をするだけで全体の利益にはならない。
なにより。悲しみを生むことが正しいことだとは思えない。
「よし」
改めて決意を固めて屋敷へと歩み出す。
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LPとミロンのセリフが『』で表されなくなったのは、機械音声がより自然にアップグレードされたからです。
決して、いちいちセリフを『』と「」で使い分けるのがめんどくさくなったという理由ではありません。




