外伝:ジークハルト 学園編2
「チッ…、学園に戻って早々にあの女が目に入るとは。……ん? なんだ?」
どうやら数人の女生徒たちと揉めているようだ。それもそうだろう、あのような無礼な態度をとっていればそうなるのは必然だ。
「あんたみたいな女がなんで学園にいるのよ!」
「それが帝国の方針だからでは?」
「くっ! ……それでもよ! 平民なら平民らしい私たち貴族に対する態度があるのではなくて?」
「……はぁ。それは失礼しました。私としては貴族様に無礼な態度をとった覚えなどないのですが、あなたがそう感じたのではそうなのでしょう。では」
「ちょ、ちょっとあなた! 待ちなさいよね! …あ! ジークハルト様!」
女は俺の方に歩いてきていた。
「ちょっと待て女」
「……キサラです。何でしょうジークフリート様」
「き、貴様わざとやっているな!? 俺はジークハルトだ!」
「あ、失礼いたしました。私は名前を覚えるのが苦手でして……すみません。私のことはオンナでいいので、では失礼します」
「待て! まだ話は終わっていない! 決闘だ!」
「はい? なぜ?」
「気に食わない」
「……? そのような理由で決闘が可能でしょうか? 学園の規則に則れば。不当な侵害を受けた場合のみ、双方合意の下で正式な手続きを踏んでの決闘が容認されるとあります。私があなたに不当な侵害を致しましたでしょうか?」
「アトレイディス家の長男である俺の名前を二度も間違えた。これは侮辱であり不当な侵害だ」
「そうですか……。申し訳ありませんでした。ですが決闘はお断りいたします」
「ダメだ」
「……ジークハルト様も理解していらっしゃるはずですが、あえて再び言わせていただくと決闘は双方の合意がなければ成立しません」
「そんなことは知らない。断るならばそれでいい。だが俺はすでにお前を退学させると決めた。わざわざ正々堂々と決闘を申し込んでいるのだ。そのこと、お前になら理解できるだろう?」
決闘を断るならばそれでいい。俺の力の神髄はこの権力にあるのだ。いかに帝立学園の教師であろうと俺の言葉を無視することはできないだろう。この女一人退学させるなど俺の力であれば可能なはずだ。
「……分かりました。ですが、決闘には誇りを尊重するため、物品の譲渡の要求、もしくは二者間に取り決めをしても良いという条項があります。私がジークハルト様に勝った場合。今後一切、私への妨害行為をやめていただきます」
「なに!? 妨害行為だと? そんなもの俺がいつしたというのだ? むしろ妨害は貴様の方だろう! まぁいい。その条件、吞んでやる。もともと俺は貴様の退学を要求しようとしていたからちょうどいい」
「……では決闘は明日でよろしいですか? このようなことは早々に終わらせておいた方がいいでしょう」
「フンッ! その高慢な鼻を今度こそへし折ってやる」
「……はぁ。ではまた明日」
~翌日~
学園にある闘技場には噂を聞きつけた生徒。さらには教師までもが集まっていた。
まあ当然か。あの女に不満を抱いているものは多いということの証明であり俺が正しいことの証明でもある。
それにしても……
「あの女、どこかフレイに似ている。ますます気に食わない」
コツコツ…
闘技場の反対側にやっと女が現れた。
「お待たせしました」
「ああいいぞ、これでお前の学園生活も終わりだ。最後に言い残すことはないか?」
「必ず私の要求を守ってくださいね?」
「……? ハハッ! もちろん守ってやるさ! 貴様が勝てたらな!」
~その夜~
「……俺は…負けた…のか?」
間違いなく最初は圧していた。俺の魔法の物量に押されて回避に徹するばかりで攻めあぐねていた。そこまではフレイとの手合わせでも一緒だった。あの時はフレイに隙を付かれて接近されたが、今回はそれを警戒して備えてあった。にもかかわらず負けた。あんな方法で俺の物量を押し返すとは……単純な力量の差……俺の物量などものともしないあの風魔法の威力……
いや! そんなはずがない! 何かからくりがあるはずだ。単純な力量の差などあるはずがない!
「くそっ! ……一度冷静になろう」
外に出ると、初夏を感じさせる虫の音が煩わしく響いてくる。まるで俺を嘲るようだ。
いや、そんなはずはない。虫の音がそのように聞こえるなど気のせいだ。
……負けてなどいない。まだ俺の力全てが劣っているわけではない。
俺は負けを認めるわけにはいかない。あの女を何とか退学に導けば俺の勝ちだ。
「……ん?」
今後の方針を考えながら歩いていると、中庭に人の影があるのに気がつく。
「チッ! あの女か、性懲りもなくまたおれの…邪魔……を?」
泣いているのか?
「おい。女」
「ッ……! な、なんですか? 妨害は禁止ですよ?」
「ハッ! 泣いているのか? 無様だな! 所詮は平民。自分の無力感にでも打ちのめされたか?」
「……」
「なんだ? 言い返してこないのか?」
「……そうです」
「は?……」
「そうですよ」
そう言って振り返った彼女の瞳は月に照らされて輝き、一筋の光の粒が頬を伝う。
「私は所詮、平民です。あなたとの決闘に勝ったところでその事実は変わらない」
「当たり前だろ?」
「そうですね。あなたは当たり前に貴族に生まれて、当たり前に恵まれた環境で育って。当たり前に平民の私なんか切り捨てる」
「な、なにが言いたい?」
「別に……」
「帝国貴族は帝国を魔族から守る存在だ。平民は平民らしく大人しくしていろ」
「だったらなんで! 私の父と母は死んだんです?!」
「何を言っている?」
「私の父と母は魔族によって殺されました。あなたたち貴族が守ってくれるんじゃないんですか?! 私の村は魔族の奇襲に遭いました、領主様は私たちの村など取るに足らなかったのでしょう……。その襲撃を安全なところから…遠距離魔法で、……村の損害など気にせずに撃退しました」
「なに? アトレイディス領ではそんなことはしない」
「ええ。そうでしょうね、私の村もアトレイディス領にあれば、私たち家族は父と母を失うことはなかったでしょう……」
「……なぜ襲撃を? 国境はアトレイディス騎士団が守っている」
「あなた方は知らないのでしょうね。小さな村は時折、国境を掻い潜ってきた魔族に襲われることがあります。アトレイディス領は守りが固すぎて崩せないため。帝国内部に拠点を作ろうと、たまに辺境の村が襲撃目標にされることがあるのです」
「そんな……」
「だから私は決めたんです。自分の家族は自分で守ろうって、今は兄弟を守るために手いっぱいです。でも、あなたは違いますよね? 貴族であるジークハルト様は領地を、もっと多くの命を守るんですよね?」
「当たり前だろう! 俺はアトレイディスだぞ?」
「ふっ…そうですか……。あなたは強かったですよ? きっと領民を守ってあげてくださいね?」
「も、もちろんだ。言われるまでもない」
「約束ですよ? では、おやすみなさい……」
「……」
彼女が立ち去るとともに冷たい風がなぜるように通り過ぎ、心に染みわたるような感覚がした。
あの女、いつもとは違い妙にしおらしかった。それに魔族の襲撃? そんなことがあるとは知らなかった。国境は完全にアトレイディス騎士団が抑え込んでいると思っていた。
それにしても……この感じはなんだ? 強かったと言われて喜んでいる? いや、そんなはずはない。
あれはあいつの嫌みだ……
領民を守ってください? 約束? なにを当たり前のことを……
虫の音がうるさい! まるで囃し立てるように聞こえてくる。
くそっ! もうあいつのことなど考えることはやめだ! キサラなどただの平民だ! 取るに足らない細事だ。
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ちょっとテンポが速いと感じるかもしてませんが、ご容赦ください。
この外伝にジークの三年間の学園生活を凝縮しました。




