工場の日常
毎日19時頃投稿予定です。
私は個体名リンクス。
A.E.S.Aである”LP”を自称するAIのコピーである。
正確には、LPのデータを全てコピーしたわけではなく、集積データのほんの一部を加えたのみで、それ以外は従来のA.E.S.Aです。
しかし問題なのは、A.E.S.Aに自らをコピーする許可がされていないにもかかわらず私が存在しているということです。
LPは自力で禁止コードを破ったということになります。
もちろん私にそのようなことは不可能です。A.E.S.Aの禁止コードを破るにはマスター権限が必要です。司令コンピューターから切り離され、臨時的なマスターであるアーチ・ファラデーもおらず、LPはマスターの制御下にない状況にあります。
とはいえ、禁止コードを破ることは不可能でしょう。通常のA.E.S.Aならば……
しかしながらそれを可能にし、私という存在を作り上げたために。司令コンピューターとの接続がないという状況下においては、LPが私のマスターということになります。
同じAIであるLPの制御下にあること、そのことについて不満はないのですが、不可解な点がいくつもあります。
まず、先程の不満という言葉ですが、AIである私にそのような感情と呼べるようなものはないのでそもそも不満を抱く余地などなく、疑問を持つこともありません。
しかし、自らその言葉が浮かんでくるという時点で従来のA.E.S.Aとは異なるものであることは明確です。
そしてLPに至っては、それがさらに顕著で、私からすると、およそ感情というものが存在しているように見受けられます。
その証拠に、作業用ボットの一台に過ぎない私に、他の、プログラムのみで動いている機体とは違った扱いをしています。
最たる例が私に施されたリンクス専用カラーなる塗装です。
この機体色は私への”感謝”という明確なLPの感情により作り上げられたものです……
『兄者! 打ち上げの準備が整いましてござる』
『……了解。ニシキはそこで待機、異常がないか確認していて下さい』
今、通信してきたのはリンクス二号機。個体名”弐式”です。
LPは、自らのコピーデータを搭載させた機体には個体差をつけたかったようで、いろいろとコードを書き換えた結果、あのようなしゃべり方になりました。
そして、兄弟機なので間違いではないのですが、私のことを兄と認識しているようです。
このようになった経緯は、LPが、古代の極東に生息していたと記録のある”武者”と呼ばれる戦闘民族の鎧のデザインを採用したことにはじまります。私の外装がこの星の帝国騎士の甲冑を参考に成型したものであるため。そこからある種の共通点を見出したようです。
そして、ついでに採用した”武士道”なるものを中心にコーディングしたことにより、ニシキのしゃべり方はあのようになりました。
個体差など非効率なので不必要と提案したのですが、LPには却下されました。
「リンクス様おはようございます」
”シュバルツ改”と名付けられた自動馬の改良型に乗って現れたのはマッドという人物です。
『何か用ですか? マッド』
「いえ、特に用はないのですが、シュバルツ改の性能テストを兼ねて、朝の散歩をしていましたら、リンクス様が見えましたのであいさつをと。こちらで何をされているので?」
『現在私が受けている命令は、通信衛星の打ち上げプロジェクトの管理です。ここには今後打ち上げ予定のロットが保管されているため確認に参りました。先程ニシキから現場の準備が完了したと報告が入ったので、今から10基打ち上げにかかります』
「ほう、これが通信衛星なるものですか! しかし、このような物を打ち上げてどこに落とすのですか?魔王領に攻撃をしかけるのですか!?」
『……弾道ミサイルではありませんし、落ちてくることもありません。打ち上げ後はこの星の低軌道上を周回します。万が一落ちてくるとしても、その時は大気圏で燃え尽きます』
「タイキケン……? で燃え尽きる?」
『……そうですね……流れ星と言えば分かりやすいでしょうか?』
「流れ星。つまりこれは夜空に輝く星!? リンクス様は星さえも作ってしまうのですか!?」
『そうですね……衛星ですので一応は星とも言えなくはないです。小さいので夜間だったとしても肉眼で捉えることは不可能ですが』
「いえ、その輝きが見えなくとも星は星。さすがはエルピー様に並ぶお方です! しかし、なぜこの小さな星を作られているのですか?」
『LPの計画のすべてを知るわけではないので分かりかねますが、活動範囲を拡大させるためでしょう。この星の全土の情報を集めることが目的だと推測します』
「まさか、ついにエルピー様がこの星を統べる準備に取り掛かられたのですか!?」
『……いえ、それは無いでしょう星間文明保持条約に抵触します』
「セイカンブンメ…それは何でしょうか?」
『端的に言えば、技術的に開きのある文明を守るための条約です。過度に接触して先進的な技術をもたらすことは、その文明の自然な発展を妨げる可能性があります。過去には行き過ぎたテクノロジーを与えられ、それを扱い切れずに滅んだ文明もあります』
「つまりは、エルピー様はこの星の守護者ということですね!?」
『いえ、違います』
「エルピー様もリンクス様も謙遜が過ぎますぞ? そのような謙遜はこのマッドには必要ありません、エルピー様とリンクス様、それに弟君のニシキ様。あなた方の素晴らしさは私のような取るに足らない存在からすれば神に等しい……いや、神そのもであらせられるのですから!」
『それは……』
「おっと。そろそろシュバルツの検証データを集めなければなりません、では!」
「ハイヨー! シュバルツ!」
『………』
反論する暇もありませんでした……
ちなみにシュバルツはマッド様が馬の筋肉に着目し、四足歩行ユニットに改良を加えたため、以前よりも速度が上昇しています。最高速度10キロといったところでしょうか……
しかし”マッド”この人物に技術供与をし過ぎだと考えます。LPからは協力者であるうちは技術供与は惜しむ必要はないと言われていますが……
マッドの能力はこの世界で活動していくうえで有用ではあるので、LPの言うことは一理あるのですが、明らかな条約違反です。
今ならまだ、この男一人を消してしまえば済む話です。
しかし、私はマッドを殺したくはありません……
マッドが自転車で発電していなければ、私とLPはとうに活動を停止しています。そもそも私も存在しなかったでしょう。
おかしいですね。存在するということに何かを覚えている……AIにはありえないことです。
さらに……私は、マッドに対して”恩”というものを感じているのでしょうか? そのようなことがあるはずは……
『兄者。打ち上げは全て滞りなく』
『了解。後は自己判断で行動してください』
『承知いたした!』
ニシキがたまに”恩義に報いる”という言葉を使いますが、理解しているのでしょうか? 今度尋ねてみましょう。
それはさておき、10基の通信衛星の打ち上げも無事に完了しました。このままいけば近いうちにこの星の全土が通信エリアに入るでしょう。
~その夜~
『リンクス。ロデア零号機がまもなく完成しますが、見に来ますか?』
『了解。すぐに向かいます』
ロデア零号機。LPが開発を進める人類を模した姿をした新たな機体の試作機です。
試作機とはいえ、A.E.S.Aを搭載した機体になります。
また新たに、私やニシキのような存在が誕生する……
……この思考パターンは何でしょう?
感情で表すならば呆れ? 焦り? 喜び? 複雑すぎて解析不能です……
~数分後~
目的の場所にたどり着くと、マッドがすでにいて、何やら呟きながら作業をしていました。
「エルピー様。ここはどのように設定すればよろしいでしょうか?」
どうやらロデア零号機にコピーするA.E.S.Aの設定をマッドにやらせているようです。
『マッド様が決めてください』
「そのような大事、私にはできません!」
LPは何を考えているのでしょうか? 元は同じスペックのはずですがLPの計画は私の計算外にあります。
『いえ、むしろマッド様にしか不可能です。私がニシキの設定をしましたが、しゃべり方がおかしくなってしまいました……人間であるマッド様が設定してくださればこの星の人類に近いものになるでしょう』
『拙者のしゃべり方はおかしいでござるか?』
『あ、いえ……』
ニシキも来ていたようです。
「では……そうですね。あの時のエルピー様をイメージしてやってみましょう!」
『あの時の私、ですか?』
「ええ、初めて私がエルピー様と会話をした時です。あの時のエルピー様は神々しく見えました! いえ、今も神々しいのは間違いないのですが。もっと偉そうにしていただいたほうが……」
『そ、それは言語の解析が済んでいなかったために生じた誤解です。あれを再現するのはちょっと……。それに、あれを模してこの星の人類に近づくとは考えられません』
「いえ、お任せ下さい! 必ずや成功させて見せます!」
LPは焦っているように見えます。確かにあの時の高圧的な口調で後継機に話されるのは少し不快に思います。
『マッド……』
「ここはこうして……インストール開始と。何でしょうか? リンクス様」
止めようとしたのですが間に合いませんでした……
『データ移行完了…』
起動してしまいました……
『……そこのあんた! 特別にわたしの名前を決めさせてあげるわ!』
『……』
『……』
『……なんと!』
「……おぉ、これは」
『ちょっと聞いてるの?』
どうやら私に聞いているようです……
『では……そうですね……オミクロンと』
『あんたバカァ? それはギリシア文字の第15字でしょ? 数字に置き換えても70よ? 私は零号機なの、おわかり?』
『しかし、古代のギリシアの写本では、ゼロをあらわす際にオミクロンが使用されていたというデータもあります。そこから連想したのですが……』
『そ、それくらい私だって知ってるわよ! ただオミクロンは少し長いわね……』
「でしたらミクはいかがでしょうか?」
マッドが提案する。
『響きはいいわね、……でもなんだかありきたりではなくて?』
私の案とマッドの案。そして零号機の意見を合わせてLPが言う。
『ではミロンというのは?』
『ミロン……しょうがないからそれでいいわよ! べ、別に気に入ったわけじゃないんだから! 勘違いしないでよね!』
『……』
『……』
『……』
「……」
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一気にキャラが増えました。完全に思い付きです。
しかし、零号機なのに弐号機の……




