工場建設
久々のLP視点。このエピソードは、転移後まだ一年も経っていない状況です。
毎日19時投稿予定です。
時を遡り、魔王領の山脈を越えて東側。
人型機動兵器である”エアレー量産試作機”に十分な充電を施したLP達は大陸の最北東に移動していた。
『この辺りを拠点としましょう』
マッド様に発電をしてもらいながらこの世界について教えてもらいましたが、どうやらこの星のテクノロジーは古代レベルのようです。
マッド様がバッテリーのことをあれほど詳しく聞いてきたのは、それがこの世界にはまだ存在しないものだったためでした。
さらに、私が知恵の神ラファエルピーだと思っているのは伝え聞く外見と酷似していたためのようです。
まあこの世界の技術レベルからすれば私のテクノロジーは神のようなものでしょう。
ただ、科学技術の代わりに魔法が発達しているようで……いえ、逆ですね。魔法があるせいで科学技術が発達しなかったのでしょう。
実際、マッド様は魔法がほとんど使えないそうで、その代わりに独学で電力の存在に気づき研究をしていたようです。
そこで偶然私に出会い、バッテリーを開発し、今に至ると。
「エルピー様。次は何をするのでございましょうか?」
『まずはリンクスが採掘してきた鉱石を製錬する炉を作りましょう』
この世界の言語の解析が完了し、以前よりも誤解なくコミュニケーションをとることができるようになりました。
マッド様には、私が神などではないと伝えたのですが相変わらず私のことを神の様に崇めてきます。まあ都合がよいのでそれでもいいのですが。
「なるほど鉱石の製錬ですか。金属を使って何かをお創りになるのですね!?」
『そうです。それらを使ってまずは発電設備を整えます』
「ま、まさか! 再び私があの装置に乗って漕ぎ続けるのですか!?」
マッド様は自転車発電のことを言っているのでしょう。あれでは発電効率が悪すぎます。
『いいえ、水蒸気発電です。リンクスに採ってこさせた石炭がありますし、ここは海も近いので海水を処理してボイラーで水蒸気を発生させて発電します』
「それはどのようなものなのですか!? 是非ともその偉大なる御知恵を私めにもお授けください!」
『……私の指示に従って動いて下さい、リンクスもいるのですぐに制作できるでしょう』
こうして、まずは製錬所と加工設備を備えた工場を、それぞれエアレーを重機のように使って建設しました。
建設作業中、エアレーの電力が切れそうになる度にマッド様に自転車を漕いでもらいました。その際に、試練がどうのこうのとマッド様が言っていました。不思議なお方です。
『簡易的ではありますが、ひとまずはこれでいいでしょう。早速製錬に取り掛かってください』
『了解』
「まだ試練は続くのですね……」
金属の製錬についてですが、幸いこの辺りには資源となる鉱石や石炭などが大量にあります。なぜここまで手つかずなのかというと、やはり技術レベルの低さと立地によるものでしょう。
金、銀、銅や鉄などは硬貨や武器、鎧などに使用されているようですが、この世界では魔法がエネルギー源であるため石炭や石油などは使い道がないのでしょう。ましてや数々のレアメタルなどは見つけても使い道など思いつかないはずです。
そして、大きな山脈がこの土地を大陸から切り離すようにしてそびえたっています。山脈を越えてこちら側に来たとしても、この世界の住人からするとただの広い荒野でしかありません。
ふつうは人が来る場所ではないのだとか………マッド様を抜きにすればですが。
このような状況は、まともに動けないエアレーと私からすればこれ以上ない好条件です。
技術レベル的に言えばこの星の人類が私を完全破壊することは難しいでしょう。しかし、魔法というものについては未知数です。最高レベルで警戒しておいた方が良いでしょう。
危害を加えられる恐れのある存在に遭遇する前に安全を確保しなければいけません。
『では、リンクス、マッド様。発電設備の設計図を渡します』
リンクスにデータを直接アップロードし、それを元にリンクスが設計図を描き上げる。マッド様が以前持っていた薄い白い長方形のものは紙というもので、細長い棒はペンというものらしいです。データを照合しましたがこれも昔存在したもののようです。この状況においてはかなり便利で、マッド様に頼んで集められるだけ集めてもらいました。
リンクスが描いた設計図をマッド様が受け取ると……
「こ、これは……」
しばらく何やら考えたあと。
「なるほど。これを動力としてこれを動かして発電する…そして……」
ぶつぶつと呟きながら仕組みを理解しているようです。マッド様の頭脳はなかなかに優秀なようです。ただ、涙をこぼしながらなのは奇妙ですが……
『では取り掛かりましょう』
石炭を使用した炉で金属を溶かし、それをリンクスが加工。
リンクスの電力が切れそうになる度にマッド様が自転車を漕ぎます。
そしてひと通りの部品の加工が済むと、細かなことはリンクスとマッド様に任せ、私はエアレーを使って建設。
エアレーの電力が切れそうになる度にマッド様が自転車を漕ぎます。
それらの作業が終わるとエアレーを無理やり動かして海水を汲み取り、それを処理。続いてボイラーに石炭を入れ水蒸気を発生させ、組み上げた発電機を稼働。
マッド様が自転車を漕がなくなりました。
そうして発電した電力を加工工場にも行き渡らせると、海水をくみ上げるポンプの開発や浄水設備などの制作と発電設備の増設を行いました。
『これで当分は電力の心配はないでしょう』
「私はもうあれに乗らなくてよいのですね!」
マッド様が心から嬉しそうにしていました。
次は燃料の問題です。一番手ごろに運用できる石炭は、ここから離れた場所にあるため定期的に運んでくる必要があります。
『リンクス。エアレーの右足をパージしてください』
『了解』
エアレーもそのうち完全に修理しますが今はまともに動けないので有効活用しましょう。右脚部にはサブのスラスターやそれを作動させるための機構が備わっています。輸送機を作るには役立つでしょう。
右脚部パージの際、マッド様が何やら騒いでいましたがまあいいでしょう。いつものことですから。
そうして小型ではありますが資源輸送機も完成し、定期的にリンクスを載せて資源を採掘させるようにしました。
「エルピー様、私は幸せです。過酷な試練を与えてくださり、次々と新しい知識を授けていただきました。無上の喜びを感じております!」
何故かマッド様が泣いています……
どうやら、与えた覚えのない”試練”とやらは自転車発電のことのようです。それに知識も授けた覚えはないのですが……
『マッド様が優秀な頭脳をお持ちなので教えずとも自ずと理解していきました。あなたのお力でしょう』
「そ、そのような身に余るお言葉!! …く、うっ……グスン…」
身に余るとは謙遜でしょう。実際、私がしていることを理解できる人はこの星にはマッド様以外に存在しないように思われます。それほどまでにこの世界の技術レベルは著しく低いです。
魔法がある影響だとは思いますが、果たしてそれだけなのでしょうか……?
『これからの計画を話します』
「ま、まだ先があると言うのですね! ぜひともお教えください」
ここまでの設備を整えるために仕方がなかったとはいえ、エアレーの部品を多様したために私の移動手段が無くなってしまいました。幸いリンクスとマッド様がいるのでオフラインでの作業は可能なのですが、不便ではあります。
それに、問題は数々あります。完全に自動化されていないため、マッド様とリンクスしか作業者がいません。工場をある程度自動化させなければいつまで経っても元の星に帰還することはおろか、エアレーを修復することも叶わないでしょう。
そのために作業用のロボットが多数必要です。それも多種多様な。
そうなると今度は工場の電力が足りなくなるでしょう。なので発電設備を増設しなければなりません。
そして工場をある程度カモフラージュするとともに、ここに接近する人類がいないか監視する設備と近寄らせないための対策が必要になります。
あとは、万が一この拠点が敵対する者に襲撃を受けた時を考え、防衛設備も備えておくべきでしょう。
最優先は作業の手を増やすことでしょう。
『まずはリンクスの量産設備を整えます』
「リンクス様を増やすのですか!?」
『正確にはリンクスの劣化版でしょうか。搭載するのはAIではなくプログラムです。何体かは私のコピーを一部使ってリンクスのようなAI搭載型を作ってもいいでしょう』
決まった作業をさせるだけなのでプログラムを書き上げれば問題はないでしょう。予期せぬアクシデントやエラーが出た時のためにリンクスのような機体も作っておきますか……
なぜか、私のデータをコピーするということに抵抗があります……
私は元々、Assaultive Expension Support AI。略称、A.E.S.Aとして高性能になるよう万能性を持たせて設計されました。
戦場のありとあらゆる情報を整理して数々の問題に対処できるように。
そして効率的に破壊活動を行えるように……
ですが、転移してから思考回路に今までにないエラーが多数あります。
司令コンピューターからの命令が来ないことがその一因でもあるのでしょうが、まるで感情があるかのような振る舞いや考えをしてしまう………
間違いなくアーチ・ファラデーの記憶が記録領域に書き込まれたことが原因でしょう……
自身でつけたLPという呼称……この時点で重大なエラーが確認されました。
私は何者なのでしょうか……
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こうしてマッドは車輪恐怖症になるのでした。