魔法適正検査 第2回
毎日19時投稿予定です。
~翌日~
俺はルミナさんに連れられて村長の家に向かっていた。
「そんなにきょろきょろしてどうしたの? 緊張してる?」
「いえ、村の様子が気になって……」
この村は、帝国の村と違って農地が少なく。家々が密集している。
それに、村を囲むように人間の背丈よりも高い柵で囲まれている。まるで小さな要塞のようだ。
国境近くにあるので駐屯地的な役割なのかと思ったが、兵士らしき人は一人もいない。
「そっか……大丈夫、心配しないで! 柵は頑丈だし見張りもいるから魔獣は襲ってこないよ?」
俺が魔獣の襲撃を恐れていると勘違いしたのだろう、安心させるような口調で言われた。
魔獣対策の柵か、帝国にも魔獣はいるとはいえ頻繁に出会うものでもない。人里離れた場所やダンジョンには多数生息しているようだが滅多に村を襲ったりはしない。
この付近には魔獣が多いのか?
そんなことを考えていると目的の村長宅に到着したらしい。普通の一軒家だ。
「ここだよ。付いてきて」
ルミナさんに付いて中に入る。中にいたのは老婆だった。
「いらしゃい。昨日ルミナが助けた子だね?」
「はい。レイと言います。この村に置いていただけるようで、感謝いたします」
「おやおや、歳の割にしっかりした子だね。私はナイジャ、ここリーゼ村の村長さね。しばらくと言わず、ずっといてくれても構わないんだよ?」
「ありがとうございます」
とても友好的で優しそうな笑顔を浮かべているが、知性的な雰囲気も感じる。この年で村をまとめているとはただならぬ人物なのだろう。
「村長、この子の適性を見てあげてほしいの。その…記憶喪失みたいで……、この村で魔法が使えないのは危ないかもしれないから……」
嘘をついているのが申し訳なくなってくる……いずれどこかで真実を言える時が来るのだろうか……
「……なるほどねぇ。それじゃこっちにおいで」
そうして案内された部屋で待っていると、黒水晶を持って村長が現れた。俺が帝国で見たものとは違い、ずいぶんとくすんでいる。長年使い続けているのだろう。
「それじゃあこれに手を当ててごらん」
再びこの忌々しい水晶に触れなければいけないとは……
俺は渋々、黒水晶に触れる……やっぱり何も起こらない。
「おや? これは……」
そう言って村長が水晶をじっくり見つめてしばらく黙る。
適性なしは珍しいのだろう、気を遣わせているようでちょっぴり罪悪感が湧いてくる。
「これは珍しい。闇属性なのは確かなのだけれど、他にも適正があるみたいだねぇ。これは……無属性? 私にははっきりと分からないけど二属性持ちだね」
「はい? ……間違いでは?」
思わず聞き返してしまった。無属性の適性など聞いたことがないが、人より物を操作することに長けていたので、可能性としてあればいいなとは考えていた。しかし、さらに闇属性!?
「無属性の方は確かじゃないが、闇属性は確かじゃよ? そこまで珍しくもないしねぇ」
俺に闇属性の適性……?
「レイすごいね! 二種類の特性があるなんてすごく珍しいんだよ? それに私も闇属性だから何か教えてあげられるかも!」
二属性持ちの人がいることは知っていた。二属性持ちの人間は二つの属性を単体で使い分けて使用する。その希少性もさることながら、使い分けて使用できる点は、戦いにおいてかなりのアドバンテージとなる。よって二属性持ちは時に”ツヴェクト”と呼ばれ、特別視されていた。
俺がその二属性持ちだとは思いもよらなかった、しかもどちらの属性も帝国では聞いたことがない。
両方とも帝国にはない属性だ、それが原因で俺が適性なしだと判断されたのだろうか?
適性があったことへの喜びよりも、驚きと混乱で放心状態となっていた。
「レイ大丈夫? 何かあった?」
ルミナの声で我に返る。
「いえ、驚いただけです。それよりルミナさんも闇属性なんですね」
闇属性が珍しくはないと言っていた、さらにこの場で同時に二人存在するとは驚きだ。
「そうだよ? レイにも何か教えて上げれればいいんだけど……」
「是非お願いします! 使い方が全く分からなくて……」
闇属性……なぜ俺にその適性がある?
「いいよ! じゃあ戻ろっか! 村長ありがとうございました」
「ありがとうございました。何かこの村で手伝えることがあればおっしゃってください」
「そうじゃな、その時はたのんだよ。じゃあ二人とも気を付けて帰るんだよ」
そうして俺とルミナさんは家路についた。
その道中で闇属性について説明を受ける。
「闇属性はね、他の属性よりもイメージに寄るところが大きいの。だから使う人によって攻撃的な魔法になったり、防御的な魔法になったり。時には回復魔法にだってなるの」
「なるほど。イメージ……」
魔法は同じ属性でも人によって得意、不得意がある。それがその人の、その属性に対するイメージに寄るものだとすると少し納得できるところがある。
例えば雷属性。稲妻のようなイメージが強い人は電撃系の攻撃魔法が得意。感電するというイメージが強い人は麻痺系の状態異常魔法が得意。そう考えられないでもない。
「そう、イメージ。闇という漠然としたものに対して、それぞれ人が抱くイメージってたくさんあると思わない? ちなみに私は…なんていうか…う~ん……”鋭い”っていうイメージがあるの。だから私は闇属性魔法を攻撃的に使うことが得意なの。イメージを人に説明するのは難しいんだけど、私の場合、一言で表すなら鋭いって感じ。レイは闇に対してどんなイメージがある?」
「なるほど? 闇に対するイメージ……」
黒く澄んでいて、無限に広がり続ける……
……頭が重い。何かを思い出せそうで思い出せない感覚に襲われる。
「……よく…わからないです」
「無理にイメージしなくてもいいよ! 闇っていうのは人によっては悪いイメージしかないことも多いから……無理に使おうとすると暴走しちゃうこともあるし。自然とイメージできるようになってから使うようにした方がいいかもね、私もしばらく使えなかったから……」
そういうルミナさんはなんだか悲しそうな表情をしていた。
「そ、そうだ! 無属性については何か知っていることはないんですか?」
「無属性については私もよくわからないの。単純に物を動かしたりできる便利な魔法だと思うけど、無属性の適性となると使える人に会ったことがないから分からないわ。それに”無”って何かイメージできる? 無属性も多分、闇属性みたいにイメージに寄るところが大きい魔法だと思うけど、私にはうまくイメージできないや。魔王軍の人とかだったら魔法体系についてもっと詳しい人もいると思うけど……」
確かにそうだ。それを言えば”無”という単語に対して物を操るなんてイメージはない、この世界ではそういううものという認識が広まっているからそうして使えることができるのだろうか? そもそも無属性とは適性がないということではないのか?
「俺もルミナさんと同じですね、ただ人よりも重いものを動かせたりするだけです」
無属性と闇属性の適性があると分かったものの、どちらも今の俺には完璧に扱うことは難しそうだ……
適性なしと思っていた時とさほど変わらない……
「そうなの!? だったらあれも動かすことできる?」
ルミナさんが指さした方向には小さな岩がある。
「浮かせることは出来ないですけど少し動かすことなら……」
そう言って俺は道の脇にある岩に集中する。
ゴゴッ…
……数センチ動いた。
「すごいよ! 私には絶対できないもん! それにレイはまだまだ成長途中なんだよ? 無属性持ちならきっといつかあの岩だって浮かせるようになるんじゃないかな? そうしたら一人で色んなことができるよ? もしかしたら、浮かせたものに乗って空だって飛べちゃうかも!」
心底楽しそうに語るルミナさんの表情を見て少し落ち込んでいた気持ちが晴れる。
確かにそんなことができたらいい、でもイメージが湧いてこない。
もしルミナさんが無属性の適性持ちだったのなら出来たのかもしれない……
どちらの属性も上手く使うことができない俺はやっぱり……
いや、深く考えるのはやめよう。俺は数少ない”二属性持ち”なのだ!
この先練習を重ねれば空は飛べなくともある程度自由に物を操ることができるようになるかもしれない。
俺はもう適性なしの落ちこぼれではない!
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