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洞窟を抜けるとそこは魔王領であった

毎日19時投稿予定です。

俺は気が付くとベッドに仰向けで寝ていた。


「知らない天井だ……」


体を起こして辺りを観察する。知らない壁だ……。というよりここはどこだろう。


「あ、気が付いた?」


黒髪のポニーテールをした活発そうな女性がこちらに近づいてくる。歳は10代後半くらいか?


「あの。ここは?」


「ここは私の家だよ? あ、私はルミナ。斥候として帝国との国境近くの洞窟に行ったら、君がケイブサーペントに襲われているのを見つけて助けてあげたんだよ?」


ニッコリと笑みを浮かべるルミナを見てつい顔が熱くなる。あわてて視線をそらして、少し考える。


帝国との国境? 言い方から察するにここは魔王領なのか? ということは目の前にいるのは()()ということか? 初めて魔族を見た。特に変わったところはない、帝国人と変わりはない。ただ黒髪という一点を除いては……


「俺はレイです。ルミナさん、ありがとうございました」


ここは一応偽名を名乗っておこう。アトレイディス家の者だとバレたらどうなるか分からない。


「よろしくね、レイ。それでレイはあそこで何をしていたの? この村の子じゃないみたいだし。あんなところに子供一人でいるなんて。お父さんかお母さんは?」


どう答えるべきか。幸い俺も黒髪だったおかげか、魔族だと勘違いしてくれているらしい。


しかし、答えようによっては怪しまれる可能性がある。あまり多くは語らない方が賢明か?


「それが、覚えてないんです。気づいたら洞窟で目を覚まして、あの大蛇に突然襲われて……」


俺は記憶喪失経験者だ、それに加えて真実も交えた嘘。我ながら完璧な回答だと思う。


「そう。大変だったね……」


ルミナが悲しそうな表情をする。なんとも言えない罪悪感が込み上げてくる。ごめんなさい……


「うちで面倒見てあげるよ。私も一人だし……」


「ありがとうございます!」


まだ状況の把握もし切れていないことだし、ここは素直に好意に甘えておこう。


しかし、これからどうすべきか……家に戻ろうにもあの洞窟をもう一度通って、魔獣のいる森を抜けないといけない。


洞窟は通れるだろうか? 派手に崩したから道がふさがっていないといいが。それに洞窟を抜けたとしてもまた魔獣に襲われる可能性もある。


あの大蛇を倒したルミナさんがいれば大丈夫だろうけど、国境を越えて帝国に連れて行ってなどとお願いはできない。


だとしたら鍛えるか! 強くなれば自力で帰れる。そう楽観的に考えることしか今はできなかった……


幸いルミナさんも家に置いてくれると言っている。


ただ、一つだけ引っかかることがある、ルミナは斥候と言ったのだ。帝国に攻め入る計画でもあるのか?


「あの、ルミナさんは斥候って言ってたけど軍人なの?」


「いいや違うよ? あ、そうか君はこの村の出身じゃないもんね。私は依頼で斥候として国境付近の様子見に出ていただけなの。あの洞窟から帝国軍が侵攻してくる可能性もあるしね。この村は魔王領の一番南にある村で、昔から魔王軍からたまに偵察の依頼が入ってくるの、私もそれに参加しただけ。危険な仕事だけあって報酬も多いしね」


なるほど。話しぶりからすると帝国に攻め入ろうとしている可能性は低いか? 一先ずは安心だ。


「この家に置いていただくからには何か僕にも手伝えることはありませんか?」


助けてもらった上に居候までするのだ。何もしないわけにはいかない。


「ん~。君の適性魔法は何? 適性によっては狩りの手伝いでもしてもらおうかな?」


ここは正直に答えるしかないだろう。


「適性はありません……ただ剣には自信があります!」


「適性ないの? 思い出せないだけじゃない? 明日村長のところに行って調べてもらお? 今日はもう遅いし、寝よ?」


「わかりました……」


また適性なしだって言われなきゃならないのか……


あの日の光景が思い浮かぶ。俺は適性検査を自信満々に受けに行った、そこで無情に宣告されたのは落ちこぼれの烙印だった……


適性魔法がないことはすでに割り切ったつもりでいるが、もう一度改めて”落ちこぼれ”と間接的に言われるのはあまり気分のいいことではない……


まあ、ルミナさんは好意で適性を調べることを勧めてくれているのだろうし、素直に従うべきだろう。


「じゃあ、もうちょっと奥に寄って」


「え?」


「ほら、早く。私も眠いんだから」


俺が横になっているベッドにルミナさんが入ろうとしてくる。


「お、俺は地面で寝ますから。どうぞ!」


そう言って起き上がろうとしたところを、強引にベッドに入ってきたルミナさんに抱きしめられる。


「あ、……え?」


「……大変だったね。ゆっくり休んで」


「………」


こうやって抱きしめられるのはいつぶりだろう? いや、俺の記憶の限りでは一度もない。


何も言えずにそのまま眠気に身を委ねるように眠りにつく。



ーーーー



腕の中でスヤスヤと寝息を立てる少年を見る。



記憶を失うなんて、どんな壮絶な体験をしたのかな……


魔王領の過酷な環境に耐えられず、帝国に希望を持って家族で国境を越えようとする人はたまにいる。


レイの家族も恐らく……


帝国に行ったって迫害を受けるだけなのに……それ程生活に苦労していたということだろう。


国境を越えるにはいくつも危険を冒さなくちゃいけない、そのなかでレイの両親は……



弟が生きていたら多分レイと同じくらいの歳かな?


この子に出会ったのはきっと何かの縁だ。今度は魔獣から守ってやれたのだから。


「フレイ……」


あの時助けられなかった弟の分もきっと私が守ってあげる。


「おやすみ、レイ……」



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フレイ?

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