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はじめての冒険

毎日19時投稿予定です。

「うわぁぁぁ!」


俺は逃げていた。木の根に躓いてこける。すぐさま起き上がって走りだす。


後ろからは四体の狼型の魔獣が追いかけてくる。これまで培ってきた身体能力を遺憾なく発揮して木々の間を縫うようにして走り抜ける。


まだ追いつかれない、しかし魔獣は狩りをするように四体が連携して迫ってきている。明らかに逃走ルートを誘導されている、このままではいずれ囲みこまれて終わりだ!


魔獣なんて初めて見た、こんなにも恐ろしいなんて。獰猛な殺意を生まれて初めて突き付けられ、俺はビビっていた。


右側に一体が突出して距離を取って並走してきている。左側に俺を誘導するつもりなのだろう、ここで左に行けば死ぬ。そう直感が訴えかけている。しかし、どうすれば?


考えているとまた躓いて転んだ。後ろの三体はまだ距離がある、右の一体は俺に飛びかかろうとしている。


その時、右手の先に太い木の棒が触れた。反射的にその棒を掴んで、飛びかかってきた一体に向け突進する。


「うおぉぉぉ!」


ぐしゃっと嫌な音と感覚が伝わる、何かを貫通したようだ。そのまま目もくれず木の棒から手を離して、飛びかかてきた魔獣がいた方角に全速力で走りだす。


「後の三体は?」


追ってきていた三体の気配が消えた、だが油断は出来ない、あの程度で諦めてくれるとは考えにくい。


走り続けていると目の前に洞窟を発見する。このまま木々の中を走っていても、恐らく追跡してきているだろう三体の魔獣にいつかは追いつかれる。


一か八かで洞窟に飛び込む、そのまま洞窟の奥へと走っていると今度は段差に躓き転ぶ。


恐る恐る振り返ると、三体の魔獣が洞窟の外で立ち止まっていた。


「いる……」


一先ずこちらに襲い掛かってくる様子はない。しかし嫌な予感がする、魔獣が立ち入らない理由があるのだろう。


「ルミナス」


落ちている石ころに発光の魔法をかける。そのまま光る石を操作して洞窟の天井近くまで浮遊させて辺りを照らす、近くに生物の気配はない。


とりあえずは助かった……のか?


なぜこんなことになったのか? たまには珍しく少年心を働かせて、冒険しようと思ったからだ。


~数日前~


「暇だ……」


俺はこれまで一人で屋敷の外に出歩くことはしなかった、というか出来なかった。何処へ行くにも従者がついて回るからだ。普段は俺の世話などしないくせに父上に言いつけられては逆らえないのだろう。


ギル伯父さんがいなくなった屋敷で俺は暇を持て余していた。勉強や鍛錬以外には屋敷でやることはなく、かといって出かけてみても、最初こそは物珍しいことばかりで楽しかったが、今やそれもない。


屋敷では遊び相手がいない上に、出かけても面倒くさそうに従者が付きまとうだけだ。


こうなれば、屋敷を脱走して冒険に出るしかない!


そう思い至った俺は、ワクワクしながら行動を開始する。


必要もないのに部屋から誰にも見つからず屋敷からの脱出ミッションを開始する。誰かに見つかったら部屋からやり直しという、自分でルールを設けて遊んでいた。


それを何日か続けた。最初は部屋を出てすぐ見つかったりと、屋敷から外に出るまでで苦労した。次第に屋敷に配置されている人の配置と移動コースを頭に入れ、気配を消して移動する。


時には想定外の場所で使用人と出くわし、使用人が驚いて叫び声を上げるという事態もあった。……無礼だぞ?


そんなこんなでついに屋敷の外まで誰にも見つからずに出ることができた。


しかしこれはミッションのファーストフェイズに過ぎない……


「……セカンドフェイズを開始する」


そう呟いて一歩進んだ所ですぐに使用人に見つかった。


無駄に広い屋敷は無駄に沢山の人が常駐していた。メイドや庭師、馬係、警備に数名の騎士。時には父への来訪者や商人などなど。


屋敷内よりも外の方が隠れる場所も少なく、相手の視界を読みづらい。それでも俺は脱出ミッションを人知れず続けていた。


そしてついに働く様々な人の視線を搔い潜り、敷地内からの脱出に成功したのだ!


「ミッションコンプリート!」


これで何日か暇つぶしは出来た。おまけに気配を読む力が少しだけ身についた。


だがここで満足してはいられない、目の前には冒険が広がっているのだ。


屋敷から脱走した俺は北側にある森に向かった。冒険と言えば森だろう。木剣を持って背の低い枝を切り倒しながら奥へ奥へと進んでいく。意味もなく木を叩いてみたりしながら鼻歌交じりに上機嫌に歩いていく。


そうして何時間経ったのだろう?


「……帰り道どっちだっけ?」


なんて馬鹿なんだろう。前世を合わせれば俺は多分アラサーだ、そんな大の大人が森を舐めて迷子になるとは……少し考えれば危険だと分かったはずだ。


言い訳するならば、初めての冒険が楽しくて夢中になっていたのだ。言い訳にもならないか、ただの子供だ。いや、ただの子供の方が賢いだろう。俺はちょっと剣術ができて、その辺の大人よりも強いからと慢心していたのだ。


完全に遭難だ。気が付けば辺りは日が沈み始めている、方角を確認しようにも木々が茂っていて日の光がどちらから差しているのか定かではない。


一晩過ごして次の日の昼になれば方角も分かるだろう、仕方ないここで野宿をしよう。


「ここをキャンプ地とする」


木剣を地面に起き、枝や枯草を集めて焚火の準備をする。遭難したとはいえ、ここまでは意外と余裕もあり、この状況を純粋に冒険として楽しんでいた。


「イグニス」


ライターくらいの小さな炎を出して火を点ける。ちょっとした生活便利魔法ならひと通り習得していた、これさえあればこのくらいの遭難何てことない。


幾分か成長した気配を察知する力で周囲に獣がいないことは分かる。


グルルル…


「え……?」


突然、獣の唸るような鳴き声が聞こえてきた。目を凝らせばそこには狼型の魔獣がいた。


ちなみに、獣と魔獣の見分け方だが魔獣は何らかの魔法を行使する。俺が遭遇したのは黒い霧のようなものをまとった狼だった。


あの黒い霧は何らかの魔法だろう。攻撃に使用するのか、防御に使用するのか。用途は分からないが魔獣で間違いない。


始めて遭遇する魔獣に恐怖し、頼みの木剣も置いて、なりふり構わず全力で走り出していた。




そうして、今に至る。


屋敷からどれくらい離れたのだろうか? かなり歩いたし、かなり走った。


これからどうする? 洞窟を出ても魔獣に待ち伏せされて終わりだ。不意打ちならばさっきのように一体は倒せるかもしれないが、一対一の状況は作れないだろう、何より武器がない。かといって洞窟の奥に進むのも危険だろう。


いろいろと考えているうちに眠気が襲ってくる。まだ体は十歳だ、森の中を魔獣に追い回されて疲れきっていたのだろう、安全が確保されていないにもかかわらず襲い来る眠気にあっさりと意識を奪われる。




ポタッポタッ…


頬に生暖かい感触が伝わる。


シュルルル…


何の音だ? ここはどこで俺は何をしてたんだっけ?


目を開けると眼前に大きく口を開けた大蛇が今まさに俺を吞み込もうと突っ込んできていた!


「うおっ!」


間一髪、その攻撃を回避する。俺はすぐさま立ち上がり駆け出す。あれ? こっちはどっちだ? 咄嗟に走り出したために入り口に向かっているのか洞窟の奥に向かっているのか分からない。


そんなこと悠長に考えている余裕もなく、大蛇は後ろから迫ってくる。


「くそっ! 今度は蛇かよ!」


何か武器があれば迎撃してみるか? 走りながら武器になりそうなものを探すも何もない。せめてもの抵抗にと落ちている石を魔法で操作して投げつける。少しは嫌がっているようだが諦めてくれるつもりはないらしい。


「武器、武器、武器……」


そう連呼しながら必死で洞窟内を走る。何か使えそうなものはないか?


洞窟の天井を見ると鍾乳石がいくつも垂れ下がっていた。あれをどうにかできれば!


後ろからは依然、大蛇がシュルシュルと舌を鳴らしながら迫ってきている。


「くそっ! 届け!」


天井に右手を掲げて鍾乳石を操作しようと試みる。すると中程から折れた鍾乳石が落下して大蛇の頭上にうまいこと命中した。


大蛇がその衝撃で怯む。


しかし、再び追いかけようとしてくる。俺は決心して立ち止まり、大蛇の方へ向く。


そして両手を掲げて。


「全部だ!」


目に映る鍾乳石すべてに操作を行う。ガガガと音を立てて鍾乳石の雨が大蛇に降り注ぐ。


砂埃が晴れるとそこには鍾乳石の下敷きになった大蛇がいた。


安堵してその場に座り込み、両手を見つめて思う。はじめてあんなに操作できた、しかも鍾乳石を折るほどの力で……


息を整えた俺は立ち上がって大蛇の方を見て言う。


「……やったか?」


その声に呼応するようにガラッと音を立てて鍾乳石が持ち上がる。


「まじかよ……」


再び俺は洞窟内を走り出す。魔力を一気に使ったのと、走り疲れて思うように足が動かない。もつれそうになる足を何とか前に出し、グラグラになりながらも走り続ける。


相変わらず大蛇は追いかけてくる。もうだめだ……。目の前がかすみ、全身の力が抜け、ふらっと前に倒れる……


……その横をすれ違うように何かが通り過ぎていった気がした。



「シャドウスパイン!」



背後で何かが何かに突き刺さる音が聞こえ、そのあと、ズシンという音とともに地面が揺れる。


「君。大丈夫?」


そこで俺の意識は途切れた……


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