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怪しい人物

毎日19時投稿予定です。

魔力操作で部屋の窓を開け放つと、春の爽やかな風が部屋に舞い込む。ティーポットを操作してカップに紅茶を注ぎ込み机についた俺はカップを浮かせて紅茶の香りを愉しむ。優雅なひと時だ。


最近の俺は出来る限りのことを魔力操作のみで行うようにしていた。それが功を奏したのか、操作技術が上がってきているように感じられる。だが、まだあのジークとの一戦以来木剣を思うように操作することは出来ていなかった。


紅茶を片手に立ち上がり、窓の近くまで寄る。暖かい春の日差しに包まれたいい天気だ。


ふと正面玄関前の広場に目をやると一台の馬車が停まっていた。


「父上の客が来ているのか」


紅茶を飲み干した俺はカップをカートの上に戻し、扉を開き、外にカートを出す。一連の動作をすべて魔法のみでやり遂げる。


「天気もいいし、中庭で鍛錬するか」


これまた魔法の操作で着替えを済ませ。壁に立てかけてある木剣を魔法で手元まで引き寄せる。これくらいはできるようになっていた。


俺は屋敷の中庭に出ていつもの剣術の鍛錬をする。


ジークは帝都の学園に戻り、母のマーシャもそれについて行くようにして屋敷を出ていった。俺からすればありがたい話だ。ジークからちょっかいをかけられることがなくなり清々しい気分だ。


ただ、母上とはほとんど会話もなく別れることとなってしまった……。愛されていないことは気づいていたし、仕方ない側面もあるので納得しているが少し寂しさは感じる。


それよりもだ! ギル伯父さんが国境の駐屯地に戻ってしまったのだ。まあ仕方ない、一通りの剣術は教えてもらったし、何せあの人は騎士団長なのだ。いつまでも前線から離れているわけにもいかない。


そんなこんなで俺は一人で剣術の型をおさらいしながら架空の敵と戦う。


攻撃と防御にはある程度で見切りをつけ、スピード重視で鍛えていた。魔法なしで魔法を使う相手に勝つならば、攻撃はそもそも当たらなければ意味がない、防御については剣だけで防ぐことは難しいだろう。


それならばやはり俺の戦闘スタイルは、間合いを詰めることを最優先にした方がいいだろう。次点で回避力か? どちらにしろ素早さが要求される。


騎士の戦い方ではない、イメージではむしろ狩人や盗賊といった感じか?


俺だって適性魔法があるならそっちを使って遠距離から特大威力の魔法をぶち込んで高らかに笑ったりしたい。


雑念が交じりつつも鍛錬を続ける。


一息ついたところで俺に声をかけてくる人物がいた。


父と同じくらいだろうか? 30か40代くらいに見える、綺麗な銀髪に赤い瞳をした男がこちらに近づいてくる。


「久しぶりだね、フレイ君。……と言っても覚えてはいないかな?」


全く記憶になかった。幼い頃に顔を合わせたことがあるのだろうか?


「すみません。失礼と承知しますが。どちら様でしょうか?」


「いやいや、いいんだよ。君が幼い頃に何度か顔を合わせているだけだ。娘の遊び相手になってくれていたのだが、覚えていないよね?」


娘? その瞬間、脳裏にこの男と同じような銀髪の女の子の影が浮かぶ。ごく幼いころの記憶だろうか?


「ああ。申し遅れたね、私は……そうだね……チェスターの協力者とでも言っておこうか」


怪しい。雰囲気も口調も何もかもわざとではないかと思うくらい怪しい。ただ、貴族である父を呼び捨てにすることから身分は高いのだろうと予想はできる。


「そ、そうですか。父上のお知り合いなのですね。どのようなご用件でこちらに?」


「ん? 用事はもう済んださ。帰り際に君が鍛錬しているところを見かけてね。様子を見させてもらっただけだよ? いい動きだった。それじゃあね」


そう言って男は停めてあった馬車に向かう。その先には従者であろう黒いフード付きのローブを身にまとった人が立っていた。顔も性別も分からない。


やっぱり怪しい。従者まで怪しい……


父上の協力者と言っていたが父はあんな見るからに怪しい人物となぜ関わっているのだろうか。まあ父上のことだ、心配はないだろう……


それよりも鍛錬だ。あの時みたいに木剣を操れるようにならなければ。


「フレイ」


「はい!」


今度は父が話しかけてきた。


「あの男は何を言っていた?」


「鍛錬しているのを見かけて声を掛けただけと。ただ父上の協力者と言っていました……。あと、僕は昔あの人に会ったことがあるのですか?」


「そうか……まあ、あの男については気にするな」


「……はい」



ーーーーー



アトレイディス領の北側の細い獣道。そこはあまり整備されておらず、その道を使うものはほとんどいない。


そんな道と呼べるか怪しい道を一台の馬車が行く。道幅は馬車が通れるぎりぎりで、デコボコとした路面をしている。にも関わらず、その馬車は不思議と一定の速度で安定して進んでいる。


そんな奇妙な馬車の中、ニヤリと笑う銀髪の男がいた。男は口を開いて、対面に座る黒いローブの人物に問う。


「クククッ、上手くいったようだ。フレイアスト君は私のことを怪しい目で見ていたな?」


そう聞かれた黒ローブは呆れを含んだ声で返答する。


「ええ。()()様のことを思いっきり怪しんでましたよ?」


その答えに満足したのか。魔王と呼ばれた男は再びニヤリと怪しい笑みを浮かべたあと目を閉じる。


「魔王様。何故あんな怪しまれるようなことをするのですか? 協力しているチェスター殿も怪しい目で見られかねませんよ?」


黒ローブにそう諭すように言われた男は閉じていた目を開き、少し怪訝な顔つきで言う。


「ん? あそうか。それはちょっとまずい…いや、気にすることはないチェスターならば上手く動くだろう。それよりもだ。フレイ君とはいずれ、然るべき場所で対面することとなるだろう」


男は少し焦ったようにも見えたがすぐに取り繕って、なんとも魔王然とした態度でそう言い放つ。


「魔王様はあのフレイアストという少年が勇者であるとお考えですか? あの少年は聞くところによると適性魔法もない落ちこぼれと言われておりますが? それに、勇者召喚がされたという事実も確認できていません。そもそも勇者召喚がされたとして、赤ん坊の状態で召喚されるなど歴史書には記されておりませんよ?」


この世界には勇者召喚というものがある。神聖国の秘術とされており、かつては召喚された勇者により魔族が滅亡寸前まで追い詰めらたと伝え聞く。


勇者の力は強大過ぎるあまり、勇者召喚を恐れたカナティオ帝国はモナト神聖国との間で勇者召喚をしないという平和条約を結んでいた。その矛先が向けられるのが必ずしも魔王に対してのみであるという確証がないためである。


そのため、神聖国には魔王領のみならず帝国からも間者が送られて勇者召喚を見逃さない体制が整っていた。


「なに、魔王の勘だよ。魔王と勇者は運命によって引き寄せられるものなのだ……」


「そういうものですか」


「そういうものだ。彼が我々の計画にどのようにして介入してくるのか、これからが楽しみだな」


そんな不敵な会話がなされる馬車は森の奥へと消えていった。



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