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策略の成果

毎日19時頃投稿予定です。

セレスティアの勝利が学園中に熱狂を巻き起こし、フレイアストが祝杯を上げるその頃、学園の最高位の寮の一室では、静かに、しかし確かな満足感が満ちていた。


煌びやかなシャンデリアの光が差し込む、広大なカイン・ヴァレトゥス・カナティオの自室。彼はソファに深く身を沈め、窓の外に広がる学園の夜景を静かに見下ろしていた。その表情には、いかなる感情も読み取れない。ただ、その瞳の奥には、すべてを見通すかのような冷徹な光が宿っていた。


彼の目の前のテーブルには、今日の生徒会長選挙の最終結果が記された書類が置かれている。セレスティア・ユーグライト、僅差での勝利。


(計画通り……、いや、想定以上か)


カインの思考は、今日の選挙戦、そしてそれに至るまでの全てを正確に辿っていた。


彼は、代理戦争の開始当初から、この結果を予測し、そのために周到な準備を進めていた。貴族派生徒による露骨な妨害が、早い段階で収まったのも、フレイアストが感じた「不自然な追い風」も、全ては彼の指示によるものだった。


「ユーリは、私の思惑通りに動いた。彼ならば、『正攻法』で対応するだろうと読んでいた。その『正攻法』こそが、彼を『貴族の枠』に縛り付ける鎖となる」


ユーリの「正義」や「秩序」への強い拘りは、カインにとって利用可能な「特性」だった。ユーリがフレイアストたちへの物理的な妨害を禁じたことで、かえってセレスティア陣営の「純粋さ」が際立つ形となった。それは、カインが望んだ通りの展開だった。


そして、選挙の最終局面。僅差でセレスティアが勝利できた理由。それは、カインが裏で動かし、組織票としてセレスティアに入れた、一部の、カインの息がかかった生徒たちの票だった。


「アルバス・フォン・グラインの公約は、ユーリの理念を完璧に体現していた。下級貴族の支持を得るには申し分ない内容だったが……、甘いな」


カインは、アルバスの公約が、いかに洗練されていても、結局は「貴族の視点」から抜け出せていないことを見抜いていた。その隙を突けば、セレスティアの訴えが、最も有効な武器になることは明らかだった。


(ユーリの目的は『貴族による盤石な秩序』。そのためには、貴族の力を強固にする必要がある。アルバスが勝利すれば、その貴族派の力はさらに推進されるだろう。それは、不愉快極まりない)


彼の目的は、ジークハルトから続いていた、貴族派が勢いを持つことを一時的にでも抑え込み、学園の権力バランスを揺るがすこと。そのために、御しやすいと考えた「出来損ない」と蔑まれて来たセレスティアを利用し、彼女を生徒会長に押し上げたのだ。


「フレイアスト・フォン・アトレイディス……貴様は、学園の生徒たちが純粋に変革を望んでいると希望を見出したでもしたか? 実に滑稽」


カインの唇の端が、微かに、嘲笑のような弧を描いた。


「だが、それは違う。彼らが求めたのは、純粋な『変革』ではない。私の用意した『変革の幻想』だ。そして、セレスティア・ユーグライトの勝利も。すべては、私の手のひらの上だ」


彼の計画は、完璧だった。


ジークハルトから続く、ユーリという「絶対的な存在」を正面から利用し、フレイアストの「異端」を巧妙に操り、セレスティアの「背景」を最大限に利用した。


その結果、学園の秩序は、彼の思い通りに揺らぎ始めた。


カインは静かに立ち上がると、窓辺へと歩み寄った。満月が、彼の冷徹な横顔を照らしている。


「次期生徒会長の座は、私が頂く。今回の選挙は単なる遊びだ」


彼の瞳の奥には、学園、ひいては帝国の未来を意のままに操ろうとする、深い野心と確信が宿っていた。


フレイアストが見た「変革への兆し」は、カインにとって、自身の盤面を整えるための、単なる一手に過ぎなかった。

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