勝利の余韻
毎日19時頃投稿予定です。
生徒会室を出た俺は、学園の喧騒を背に、慣れ親しんだ特別聴講生の寮へと向かった。ユーリ生徒会長との会話は、俺の胸に新たな決意と、まだ見ぬ未来への期待を呼び起こしていた。退学処分は取り消された。これでようやく、俺は学園に留まり、本当の意味で「変化の楔」を打ち込むことができる。
寮の共有スペースに入ると、そこはすでに小さな祝宴会場と化していた。特別聴講生たちが集まり、簡素な菓子や飲み物が並べられている。中心には、戸惑いの表情を浮かべたセレスティアがいた。
彼女の周りには、興奮冷めやらぬ生徒たちが群がり、口々に祝福の言葉を贈っている。
彼らはセレスティアと同じく緑属性の魔法の研究をしてきた生徒たちだった。
「セレスティア様、本当におめでとうございます!」
「まさか、貴族派の候補者に勝つなんて!」
「緑属性魔法の時代が来るぞ!」
歓声の中、セレスティアは俺に気づくと、その顔をぱっと輝かせた。
「フレイアスト君!」
彼女は人垣をかき分けるようにして、俺の元へと駆け寄ってきた。その瞳は、達成感と純粋な喜びに満ちており、公約宣言の舞台で見せた凛とした姿とはまた違う、年相応の少女の表情だった。
「おめでとうございます、セレスティアさん。見事でした」
俺がそう言うと、彼女ははにかむように微笑んだ。
「はい! フレイアスト君のおかげです。私一人では、決してここまで来られませんでした」
「いえ、違います。あれはあなた自身の力です。実際、僕はあの場で諦めを抱いてしまいました。しかし、あなたは違った。緑属性魔法への信念が、皆の心を動かしたんです」
俺は、彼女の「進化」を改めて称えたかった。かつて「震える小鹿」のようだった彼女が、今、学園の常識を覆すほどの力を示したのだ。
「それにしても、僅差でしたね」
俺がそう言うと、セレスティアは小さく頷いた。
「はい。私も驚きました。まさか、勝利できるとは……。あ、違いますよ? 勝てないと思って候補者に名乗り出たわけではありません。私は本当に勝ちたいと思って立候補しました。でも、アルバス様の公約は……、あの内容は、多くの貴族の方々には響いたでしょうから……」
彼女の声には、僅かながら、ユーリ陣営の戦略性への敬意が滲んでいた。しかし、その顔に、怯えの色はもうない。
「それでも、あなたが勝った。それは、あなたの言葉が、そしてあなたの示した可能性が、彼の完璧さを上回ったということです。学園の生徒たちは、現状維持や、貴族だけの『実力主義』ではない、もっと本質的な『変革』を求めていたんです」
俺は、テーブルに置かれていた果実水を手に取り、セレスティアに差し出した。彼女も嬉しそうにそれを受け取る。
「あなたは、見事に『真価』を証明した。お疲れ様です、セレスティアさん」
「ありがとうございます、フレイアスト君!」
セレスティアは満面の笑みで、グラスを傾けた。その表情は、達成感と、未来への希望に満ちていた。彼女の周りには、再び生徒たちの笑顔と歓声が広がる。学園の新たな夜明けを告げるかのような、暖かく、輝かしい祝杯だった。
この瞬間、俺の胸にも、確かな喜びと安堵が広がった。セレスティアの勝利は、俺自身の「進化」の道の第一歩でもある。だが、これはまだ始まりに過ぎない。この小さな、しかし大きな勝利を足がかりに、俺たちはさらに大きな波紋を広げていくのだ。
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