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静寂の中の波紋

毎日19時頃投稿予定です。

学園の隅にある小さな教室は、熱気に包まれていた。セレスティア・ユーグライト侯爵令嬢による緑属性魔法のデモンストレーションは、今や以前のような緊張感や失敗の気配を微塵も感じさせない。彼女の手の中で、枯れた花がみるみるうちに鮮やかな色を取り戻し、萎れた葉がピンと張っていく。その度に、周囲から小さな感嘆の声が漏れた。


(……すごいわね)


アストリアは、教室の片隅、誰にも気づかれぬように静かにその光景を見つめていた。彼女の瞳は、セレスティアの手元から放たれる淡い緑色の光と、生命を宿していく植物の脈動を追っていた。


魔王領は、その性質上、資源に乏しい。常に生命の息吹が希薄な、過酷な大地だ。この、目の前で繰り広げられる「創造」と「再生」の魔法は、故郷の未来を担う魔王の娘であるアストリアにとって、単なる学術的な興味以上のものを喚起した。彼女の故郷の地にも、この緑属性魔法の技術がもたらされれば、どれほどの恵みとなるだろう。


そして、その魔法を操るセレスティアの、変わりようもまた、アストリアの静かな心に波紋を広げていた。


「この魔法は、根から水分を吸収し、葉脈を通じて隅々まで栄養を行き渡らせることで、枯れかけた植物に活力を与えることができます。応用すれば、劣化した建材の修復や、荒れた土壌の回復にも繋がるはずです」


セレスティアの声は、かつての震えを失い、自信に満ちていた。生徒たちの質問にも堂々と答え、余裕さえ見えるようだった。


そして隣には、いつもフレイアストが控えていた。彼はセレスティアの言葉に耳を傾け、時折静かに頷いたり、目だけで合図を送ったりしている。二人の間には、いつの間にか固い信頼と、他者には踏み込めないような絆が生まれているように見えた。


(あの、「出来損ない」と言われてきた侯爵家の令嬢が……まさか、ここまで変わるとは)


以前のセレスティアは、人前で話すことさえままならない、か弱く、そしてどこか自身の境遇に諦めを抱いているように見えた。それが今、フレイアストの隣で、自らの魔法の可能性を力強く語っている。その変化は、目覚ましいという他なかった。


アストリアの感情の読めない表情の奥で、微かな焦燥感が募っていく。それは、フレイアストという存在を中心にして、周りが変容していく。まるで魔法の発動のように、魔素が現象を顕現させるように……。


そして、得体のしれない感覚を覚えた。まるで、何か重要なものが、自分の知らないうちに、自分の手の届かないところで、ものすごい速度で変わり始めているような……。


フレイアストとセレスティアの関係が深まるにつれて、彼女たちの活動は、周囲にいる他の特別聴講生たちにも、目に見えない影響を与え始めていた。平民である自分たちが、貴族である彼らと協力し、学園の常識を打ち破ろうとしている。その構図は、アストリアの胸の奥深くに、故郷の未来、そして自らの役割について、静かな問いを投げかけていた。


アストリアは、何も言わずに教室を後にした。彼女の瞳は、外の新緑のように深く、しかしその奥には、未だ誰にも明かすことのない、複雑な感情の波が揺れていた。

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