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マーシャの考え

毎日19時投稿予定です。

長いストレートの金髪をした女性は窓の外を眺めていた。


遠くに広がる光景は穀倉地帯や森林。自然豊かでいかにも辺境の田舎といったものであった。


女性の名はマーシャ・フォン・アトレイディス。実家は帝都近くに領地をもつ公爵家である。故郷や帝都と比べて貧相なアトレイディス領が気に食わないのだろう。不満を口にしていた。


「はあ。早くジークが学園に入る歳にならないかしら……」


政略結婚とはいえこの家に嫁いだのは最悪だった。帝国の大臣でもある父は、魔王領との国境を一手で担うアトレイディス家とのつながりを持ちたいと考え、私を嫁がせた。


対するアトレイディス家も領内を保つために帝国の支援が必要。……私には抗いようのないことだった。


「都会暮らしが懐かしいわ。ただ……あの件さえなければ、ここで幸せに暮らそうとも思えたのに」


最初は嫌だったものの徐々に田舎の暮らしにも慣れてきて、これはこれで良いかもしれないと思い始めていた矢先、事件は起こった。


「あれから私の人生は狂いはじめたのね……」


夫のチェスターが魔王領との国境付近への遠征中、魔王軍と争いになり行方不明になったのだ。


チェスターは口数が少なく何を考えているのかわからない部分があったが決してダメな夫というわけではなかった。


息子のジークの面倒も見てくれるし、余計な口出しもしない。その時の私的には及第点といった評価だった。


しかし、突然当主不在なったアトレイディス家は混乱に陥った。


領地経営は滞るばかりで、それまでのんびり暮らしていた私は当主代行となり、それからは執務室に籠りきりで忙しい日々が続いた。


そんな日々が一年以上続いたころ。唐突にチェスターは帰還してきた。


魔王領で行方不明になりながらも、たった一人で生き延びて帰ってきたのだろうか? とんでもない人だと思いながらチェスターが戻ってきたことに素直に安堵した。


何があったのかと聞いても答えてはくれなかった。


「はぁ……あの時もっと問いただしていれば……」


当主不在の間、代行を務めたことで、夫に対する思いが変わってきていた。


魔王領との国境を引き受けながら領地経営もこなす姿に次第に惹かれていき。愛するようになった。


領地に帰還してからのチェスターは屋敷にいる時間が減り、外出することが多くなった。そんな夫のため、そしてこの領地を継ぐジークのために私は夫をサポートするべく内政を手伝うようになっていた。


全ては愛する夫と息子のために。


それから二年が経つころ。フレイアストが()()()


その髪は黒髪で、濃い霞色の瞳はチェスターと同じ。その子供は夫が連れて帰ってきた。


あろうことか、なんと息子だというのだ。


それを聞いた時、愛情は憎しみへと転化した。


行方不明を装ってその間に他の女との間に子供を作っていたのだ。


屋敷にいる時間が減ったのも仕事ではなく、他の女のところに行くためだったのであろう。その女はきっと死んだのだ、それでやむなく子供を連れてきた。


そう問いただしても否定はされなかった。


他の女との間の子など、黙ってどこかに隠してくれた方がマシだった。なのに何故アトレイディス家の正式な子として連れてくるのか。


それからの私は、すべてが馬鹿らしくなり、屋敷で好き勝手に暮らすことにした。


アトレイディス家との関係が悪くなることを公爵である父は求めないだろう……娘の私よりも権力が大事なのだ。それに唯一愛しているジークもまだ幼かった。


そうしてジークが学園に通う年齢になるまで我慢すると決めた。ジークが学園に行くようになれば、対外的な理由をつけて帝都について行ける。そうなればもうこんな辺境の田舎とはおさらばして、二度と戻らない。


夫のチェスターが憎いのはもちろんのこと、連れてきたフレイアストも憎たらしかった。


幼いながらも大人びていて可愛げがない。何をさせても優秀であり、そのことが浮気相手の女に自分が負けている証拠のようにも思えた。そして何よりも”黒髪”である。


フレイアストのことは無視することにした。そんな子供、いないものとすることが精神的に一番楽だったから……


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