プロローグ
毎日19時頃投稿予定です。
とある恒星系のデブリ地帯。無数の光の筋が交差し、いたる所で爆発が巻き起こる。
帝国軍対連合国軍の資源惑星の支配権をめぐる国境戦争。
デブリ帯の中を小隊規模の人型機動兵器での近距離戦闘が繰り広げられる中、帝国軍側の隊長機に黒髪、翠眼の二十代の男が搭乗していた。
「ッしゃ! 10機目!」
『現在、当機は本宙域での撃墜スコア、トップを更新。エアレー量産試作機の性能評価を更新します』
コックピット内からサポートAIの音声が報せる。
続いて、副長からの通信が入る。
『さすがです! ファラデー隊長。この宙域の敵軍は壊滅状態です!』
どうやら我が小隊は期待通りに戦果を挙げてくれているようだ。
「近くで押し込まれている戦線を教えてくれ」
そう言って機体に搭載されたAIに問う。
『3時の方向。こちらが最寄りの戦線です』
ゴツゴツとし、窮屈なコックピット内の前面にあるディスプレイに座標が表示される。
「最短ルートは?」
『現宙域を離れるおつもりですか?』
「そうだよ、ここはあらかた片付いただろ?」
『当機は独断先行権を有していません』
「頭の固い相棒だな。……しゃーない、ナビなしで行くか」
デブリ帯を突破して隣の戦線に向かう為には、最短ルートのナビなしでは少々時間がかかる。
とはいえ相棒に拒否されたならば仕方ない。
「小隊に告ぐ。部隊を半分に分ける。半数は俺に続け。残りは副長に一任、この宙域で敵を殲滅後、合流しろ」
俺は部隊に命令を下し、スラスターの出力を上げようとする。しかし…
『逸脱行為を確認。出力を制限』
「……え?」
機体を進めようとしてもノロノロとしか進まない。機体に搭載されたAIが出力を制限したらしい。
「おい! 邪魔すんな!」
『当小隊に与えられた命令は、現宙域での新型兵器”エアレー量産試作機”実践テスト並びに、。A.E.S.A搭載による戦闘での評価テストです。速やかに部隊を再編し、任務を継続してください』
新型の性能は十分だが、そのAI搭載ってのは一考の余地があるな。
「同じやつが他にもいるだろ! そいつらに任せて俺を次の戦場に行かせろ」
俺が配属された小隊は、全て、帝国軍の”エアレー”という同じ新型の量産試作機で組織された少数精鋭の部隊だ。パイロットのレベルも同程度。ちなみに、さっきからしゃべっている頭の固いサポートAIも同じく搭載されている。新型の性能テストと同時に機動兵器へのAI搭載による影響もテスト項目に含まれる。
「テストならちょっとくらい違う動きしたやつがいたほうがデータ採れていいだろ?」
『その意見については一考の余地があります。しかし、命令にないため許可できません。現宙域での戦果は十分です。残存兵力を殲滅後、速やかに帰投してください』
「頭の固いやつだな……」
『頭? 私はこの機体に搭載されたAIです。身体的機能は有しておりません。もっとも、この機体を身体と仮定するならば頭部には各種センサー類やカメラなどを搭載しているため比較的頑丈に設計されております、さらにいえば……』
AI搭載による様々なアシストで、たしかにこの機体の性能は従来のものに比べて段違いだ。しかし、頭が固すぎるのが難点だ。
「……もういいよ。わかった」
「各員。先程の命令は取り消す。現宙域で敵の殲滅に専念しろ……」
渋々そう命令を下し、作戦宙域から少し離れ気味になっていた隊列を戻す。
すでにこの宙域では戦闘が沈静化しており、次の命令を待つこととなっていた。
「そろそろ帰還命令が来るころか? これだけの戦果じゃまだまだ足りない……」
そう、これじゃまだまだ足りないのだ。前線に投入されてから今まで、何とか生き残ってきたが、このまま前線でこき使われて死んでいくことは避けたかった。
宇宙にまで進出した人類は、その技術力により繁栄を極め、恒星系の中にある惑星や衛星などに生存圏を広げていた。
人口は爆発的に増える一方であり、人間一人当たりの価値など無に等しく、無限に広がっていく戦線にゴミを捨てるように投入されていく。
帝国の平民は皆、6歳になると能力検査を受けさせらる。優秀な者はすぐに徴兵され、軍隊に身を置くことになる。かく言う俺も優秀と判定されたために家族から引き離され、幼少期は軍にある組織で教育と訓練の日々に自由を奪われた。
帝国による管理の一環で、平民から反抗する力を削ぐ為に優秀な者ほど最前線送りにされていく。使い捨ての駒のようなものでほとんど生き残らない。帝国からすれば、際限なく増える人口を減らし、既得権益の脅威になり得るかもしれない優秀な人材をつぶし、さらには領土侵攻もできて一石二鳥も三鳥もあるのだろう。
徴兵されてしまったが最後、自由になれるのは何のためか分からない戦いで散ってからだ。
だが、俺はそんな自由は求めていない。戦場を生き抜くうちに思ったのだ、数キロ先から放たれる敵戦艦の主砲をかいくぐり、はるかかなた数百キロも先にいる敵艦隊をレーダーで捉え、時には何光年も離れた戦線へ赴く。こんなにも宇宙空間は広いのになぜ自分は縛られているのか。
何者にも縛られず自分の気の赴くまま自由に生きたい。
そのためにはまず現状からの脱却だ、いつまでも最前線送りでは命が持たない。並外れた武功をあげれば将校として後方勤務の可能性もある。俺はそこを目指すと決めた。
しかし、簡単なことではない、最前線はそもそも優秀と判定された者たちばかりなのだ。その中で、ずば抜けて目立った功績を立てるのは骨が折れる。
幸いにもここまで生き残り、今回、新型のテストという形で少数精鋭の部隊の隊長に抜擢された。またとない機会である。
新型とは往々にして故障やら不具合やらで想定通りの戦果を発揮することが難しいものである。
しかし、こいつはここまでの戦闘で予想に反して想定以上の戦果をあげていた。満足のいく性能であると言えるだろう。
それ故に俺は焦っていた。このまま帰還すれば次はいつ、こいつに乗って戦場に出ることができるのだろう……
今回のテストで俺はスコアトップではあるものの、ずば抜けた戦果を出したとは言い難い。まだまだ敵を倒さなければ……
『ワープ反応を確認。現宙域に新たな敵部隊です』
いいタイミングでチャンスが巡ってきた! 撃墜スコアを伸ばせそうだ。
「きたっ! 数は?」
『連合国軍。師団規模と推定』
「は…?」
『内、機動兵器はおよそ10万』
「くそっ! なんでこんなところにそんな戦力が!? 撤退か……」
この宙域はデブリ帯での小競り合いばかりが続いている戦線だ。連合側はゴリ押しでデブリごと吹き飛ばして戦線を押し上げるつもりか?
考えるのは後だ、もたもたしていたら敵の大軍勢にすりつぶされる。
「各員。ここは撤退だ!」
小隊に指示を出して撤退行動に移ろうとしたその時。
『3時の方角の戦線から後ろ側に回り込む形で敵中隊接近。このまま迎撃してください』
「おい……」
絶体絶命だ。まだ距離的に余裕があるとはいえ、一個師団が侵攻して来ている。撤退しようにも後ろは隣の戦線から流れてきた敵部隊。対するこちらは精鋭とはいえテスト中の小隊。後ろの中隊を突破して撤退するしかないが、挟み撃ちに合う前に突破しきれるか怪しいところだ。
「突撃陣形をとれ! 回り込んできた敵中隊のど真ん中を突き破る!」
『しかし、隊長! 相手は中隊です。ここは何とか持ちこたえて援軍を待つ方がよろしいかと……』
副長がまともな進言をしてくるが却下する。
「却下だ。副長。我々最前線の部隊に援軍が来たことが一度でもあったか?」
最前線送りの部隊など帝国軍からすれば使い捨ての駒にしかすぎない。援軍など送ってくれようもないのだ。
「俺が先頭で切り込む。各員後ろに続け。遅れた奴は無視しろ。一人でも多く突破しろ!」
「いくぞ!」
『了解!』
隊列を整えて後方の部隊へ突撃をかける。ビーム兵器をかいくぐりながら接近戦へと持ち込む。やはりこの新型は性能が段違いだ。敵側の機体と比べて機動力も反応速度も何もかもが圧倒している。
戦闘中ながら、機体に性能差がある分、余裕が出てきた。……そして思う。
「この部隊、さっき俺が叩きに行こうとした戦線のやつらだよな?」
『そうです』
「そうです。じゃねーよ、お前が邪魔してなかったらもっとマシな状況になってただろ」
『命令ですので。それにあなたの言うことは結果論で、不確定な予想でしかありません』
「そーですか。まあいい、こうなったら仕方ないから、とっとと撃墜スコア伸ばして帰還するぞ。全力で行くからしっかりサポート頼むぞ」
『了解』
今のところ小隊の他のやつらも隊列を乱さずに突撃している。この分なら挟み撃ちになる前に後退できそうだ。
……そう思った矢先。
『後方の敵部隊の進軍速度がデータより早いです。このままだと追いつかれます』
「なに!?」
『データにない速度。連合国の新型と予想します』
「ついてないな……」
どちらにしろ突破しかない。切り替えて前方に集中しよう。
『後方からビーム接近。緊急回避行動をとります』
コックピットに衝撃が走る。帝国軍の機動兵器のコックピットはパイロットの安全性など度外視のため安全性能が極端に低い。被弾した衝撃で前頭部を強打。ヘルメットをしていたため致命傷は避けられたが、バイザーが破損し頭部から出血する。
『左脚部に被弾。スラスター一部破損。損害軽微』
『パイロット。バイタル異常軽微。頭部強打による脳震盪を確認』
『一時操作権を掌握。オート迎撃モードに移行します』
ブックマーク、高評価、グッドボタンが何よりも励みになります!
ちょっとでも続きが気になると思っていただけたら是非お願いします!