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姫は悲しみを纏う

葬列の思いは、暗い。しとしとと降り出した雨が、火葬の火をくすぶらせる。フェリドは、あることを思い出していた。


昨晩、リラたちとともにトリランタ王の元を訪れて、次の日に書庫を開けてもらえるように頼んだフェリドは、一人で客室へ戻っていた。そしてその時にコルレッドと出くわしたのだ。何も言わずに行き過ぎようとしたが、コルレッドの方が言葉をかけてきた。

「ルクタシア王は、王女を幸福にできる人間か……?」

「わからないな、まだ……。」

フェリドは、ふっと笑った。

「……王は青みがかった黒髪に、青紫の瞳の十九の若者らしいな……。」

コルレッドがフェリドの方に向き直り、彼をじっと見つめた。

「そして、その条件に一致する人間が目の前にいる、と言う訳か……。違うか?」

フェリドは、余裕たっぷりに笑ってそう言った。コルレッドの反応が、激しくなる。

「その通りだ。このことを王女は御存じなのか?」

「まあ、少なくとも知らないことは確かだな……。知られていたら、僕は今頃大地に埋められている。」

おそらく、ルクタシア王は彼女には嫌われているだろう。なにせ、会う前から離婚を切り出された程だ。

「なぜお伝えしなかった?いや、なぜ王女が御存じないんだ……?」

「そうなるとお互いに自由に行動しにくくなるだろ?王は急な病で臥せっていることになっているから、彼女とは一度も対面していない。婚約者・・・として、はね。それに、一人に縛られる人生なんて、退屈で仕方ない。だろ?」

コルレッドはその言葉でカッとなり、彼を怒鳴りつけた。

「あの王女を得ておきながらそんなことを考えているのかっ?お前は!」

凄まじい怒りをその全身に表しているコルレッドに対し、フェリドはにっと笑った。

「じゃあ、彼女の心を僕が手に入れれば文句はないか?それで君が焼き餅を焼く必要もなくなるだろ?」

「お前のような奴が、王女の心を得られる訳がない!」

「やってみなければわからないだろ?まだこの旅は先も長い。時間は十分にあるという訳だ。」

コルレッドが俯いた。それから、静かな怒りを込めた口調で言葉を紡ぐ……。

「……お前のことは、王女にはお伝えしない……。でも、あのお方を不幸にしてみろ、地の果てまで貴様を追い詰めて地獄に送ってやる!」

そう宣戦布告して、彼は歩き去った。後に一人残されたフェリドが、回廊の手摺にその体を預け、外を眺めながらふぅ、と溜息をついた。

「やれやれ、仮にも一国の王に向かってお前、とか貴様、とか……。」

月が、雲の陰にその身を隠した。


『つい昨日のことだったのに……。』

まだ半日も経っていないのに、彼の命の炎は消えた。それが、自分たちの旅が常に危険と隣り合わせだということを思い出させて、彼の胸に重くのしかかった。それ以上に、彼女の心に……。リラは、心ここにあらずといった状態だ。今の彼女は、息をしている人形、といった状態……。とても、今の彼女は旅に出れる様子ではない……。彼は、何日間かトリランタに留まる覚悟をした。


その次の日、彼はその目を疑った。リラが、旅仕度をしているのを見たのだ。

「リラ、もっと休んだ方がよくないか……?」

剣や防具を選別している彼女に、そう言葉をかけた。その彼女から返って来たのは、悲しみを押し込めた、重い微笑み……。

「いや、ここにいればトリランタの皆を巻き込んでしまうかもしれないからな、早々に出立したいんだ。父上に頼んで書庫は開けてもらった。行こうか……。」

彼女が纏っているのは、悲しみで重くなってしまった空気……。それを体の中に押し込めて、懸命になって彼女は生きていた。しかし、彼にはなんと言葉をかければ良いかわからなかった。彼からの慰めの言葉など、安っぽい言葉に過ぎない……。そう思って、彼は黙ってその後をついて行った。


「これがトリランタの古文書だ。欠け方が、ルクタシアで見た石板と繋がりそうなんだが……。」

リラはそう言って古文書の端を指差した。確かに、ここにあの古文書があればぴったりと重なりそうだ……。なぜかはわからないが、あの石板は二つの国に分かれて保存されていたらしい。

「これによると、大地、炎、闇の子は男性で、水、光、そして風の子は女性ということになる。時の子だけは性別はわからないが……。まあ、あくまでも全て推測だがな。」

「いや、おそらく正しいだろう……。今いるのは風、大地、水の三つ。少なくともあと男性が二人と女性が一人いるんだな。」

彼が納得したように頷きながらそう言った。

「ラッツィの国王陛下に謁見の申し込みをしないとな。トリランタの陛下にとりなしてもらえないだろうか?」

「わかった、父上に頼んでおく。もういいか?鍵を閉めなくては……。」

「ああ……。」

書庫を後にして、彼女がカギを閉めるその様を見つめる。その様子は、フェリドの目にはこう映った。まるで、彼女は自分の心にも鍵をかけているようだ……。しかし、やはり彼は彼女にかける言葉を持ち合わせていなかった。そのまま、その後ろ姿を見送る……。彼の中身が、また痛んだ。彼の心ではない、別の何かが……。

こんにちは、霜月璃音です。ここまでお読み下さっている皆様、ありがとうございます。

異国恋歌~風空の姫~の第六話をお届けしました。今回は少し短いですが、他の話よりも時間がかかってしまいました。

第七話では、新しい仲間が増える予定です。どうぞよろしくお願いします。


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