運命の完結に向けて
シンナンの外れに幕営していた一行は、フェリドの体力が回復してすぐに旅立つこととなった。港町に出て、次の目的地への船を探す。
「次の目的地は……まずはホーゼリアだな」
一刻も早くハーバナントに辿り着きたいという気持ちとは裏腹に、フェリドの頭はどこか冷静に次の一手を考えている。本当はまっすぐにハーバナントに入りたいのだが、己の体力が完全に回復すること、闇の子を探すことを考慮して最善の道を探す。
「そうだね、ホーゼリアとハーバナントは地続きだから、まずはホーゼリアに入国して、そこからハーバナント行きの道を探した方が確実だ。それに……」
言葉を切ったエルリックの後を、姉のティアナが引き取って続ける。
「大国、なおかつ大きな軍隊を持つホーゼリアを、隣国のハーバナントが放置しているのはどう考えてもおかしい、でしょ?」
一同が頷いてから、フェリドが続ける。
「おそらく、ホーゼリアが軍隊を持つことでハーバナントになんらかの利益があるんだろう。同盟や密約ならまだいいが、最悪の場合……」
「王家に、すでに闇の軍勢の息が掛かっていることもありえますものね……」
ジュリアの言葉で、全員が沈黙を落とした。
「その心配が大いにあるんだ。だから、気を抜かずに行こう。ちょうど双子の王女の生誕祭があるから、各国の代表としてそれに参列すれば、少なくともあっさり消されることはないだろう……」
フェリドの慎重な意見に、全員が同意する。
「双子の王女……。それぞれ、夜の君と新月の君と呼ばれている二人だよね。どちらかが、闇の子ってことは……ないよね」
エルリックの疑問に、ティアナが首を横に振る。
「それはないわ。闇の子は、男の人なの。古文書のこと、リラが言ってたじゃない。それに……」
ティアナの沈黙に、ジュリアが頷く。ティアナは、さらに言葉を続けた。
「ヘレンツィ、彼も必ず転生してるはずよ。わかるもの……」
四千年前に別れたきりの、彼女の運命の半身。今はまだ遠くても、わかる。彼は、必ず彼女を待っている……。それに、彼女の母神も言っていた。彼はずっと、彼女を待っていると。
「そうだよね、姉さんの言う通りだ! ヘレンツィを探そう! もしかしたら、王家の親戚にいるかもしれないし!」
姉の言葉を引き取って、エルリックが続ける。少しでも、姉を力付けたくて……。明るい調子のエルリックに対して、ジュリアが重く、力強く言葉を発する。
「今までバラバラに転生を繰り返していた私たちが、一度に揃って生まれた。きっと、この世界を救うためだけではない、別の理由があると思うんです。そして、それはきっと……」
彼女の確信に満ちた言葉に、フェリドが顔をあげる。彼の口からは、自然と言葉がこぼれてきた。
「僕たちの……神代から続く運命の、完結……」
ジュリアが、フェリドのその言葉に強く頷いて見せる。そして、ティアナとエルリックが目を見張る。
「おそらく、今回の転生で私たちの運命になんらかの結末がくだされるのでしょう……」
「……もちろん、とびっきりにいい結末の、ね! だって、物語はハッピーエンド、でしょう?」
ティアナが持ち前の明るさを全面に押し出して、朗らかに笑う。彼女のその言葉に、全員が笑みを見せる。
「……そうだね。僕たちは、それを目指して頑張らなきゃ!」
待っていてくれ。心の中で、敵地の想い人にそう声をかける。確かに、自分は彼女を傷つけてしまった。それでも、この想いを伝えたい。伝えなきゃいけない。彼女との四千年に渡る絆は、きっとこんなことで途切れたりしない……。彼女が過去の記憶をなくすことを望んだのであれば、それでもいい。新しく、彼女との絆を作っていきたい。
彼女に会ったら、伝えたいことがたくさんある。まずは、今生の謝罪。もしかしたら、彼女は最初、口もきいてくれないかもしれない。それでも、謝って、謝って……。優しい彼女のことだから最後にはきっと、仕方ないわね、なんて言いながら笑顔を見せてくれる。それから、伝えたい。今生のフェリドから、今生のリラへの、想いを……。
「よし、行こう! ホーゼリアへ!」
希望を取り戻した一行の上には、眩しい太陽が煌めいていた。