外伝 不思議の国のリラ(製作者フェリド)2
不思議の国の扉を開くと、そこには夢のような光景が広がっていました。咲き乱れる花々に、どこまでも青く澄み渡る空、鳥が歌い、蝶が舞う……。桃源郷というものが本当に存在するならば、それはきっとこの場所のことを言うのでしょう。……ただ一つ、問題が。
「私、花よりも小さいんだけど……」
そう、リラの背丈は咲き乱れる花々よりも小さく縮んでしまっていたのです。さすがの彼女も、これには困惑して溜息をつきました。皆が出て来るためには彼女が先へと歩かなければならないのですが、こんな小さな体では長距離の移動もままならないためです。
「情けないお姿ですわね、お姉様。とてもトリランタの第一王女にして、大国ルクタシアの王の婚約者には見えませんわね」
頭上から突如降って来た聞き覚えのある声に、リラは体を固くしました。その後、その言葉に続いてクスクスと笑い声が聞こえます。
「どうなさったのですか、お姉様? 妹との感動の再会にお言葉も出なくなってしまったのかしら?」
リラはキッときつい視線を頭上に向けて、忌々しげに相手の名を呟きました。
「ドロシー……!」
そこにいたのは、トリランタの城で別れて以来、できるだけその存在を思い出さないようにしていた異母妹でした。
「ちょっとフェリドさん! 何と言うことを……」
「え、妹たちとリラって、仲悪かったの? いや、普段なかなか会えないから、お話の中だけでも会えたら嬉しいだろうなと思って……」
「確かに、お姉様だってお城に残して来た妹たちのことは気がかりだと思いますわ。でも、彼女だけはダメなんです! フェリドさんの人選ミスですわ!」
そのジュリアの言葉に、フェリドは言いようもないほど慌てました。そして、とんでもないことを言い出します。
「あー、リラ! そこにある茸を食べて! そうしたら大きくなれるから、それで一気に物語を進めて! 花畑の花にはあんまり関わらなくていから、次に行こう!」
そうです、フェリドは物語製作者の権限を使って、物語の強制スキップを行うことにしたのです。リラはあまり花畑の花と関わりたくないと思ったのか、サッと駆け出して茸を千切りとり、勢い良く口に含みました。すると、その瞬間から見る間に彼女の体が大きくなり始めたのです。
「ちょっと待ってよ、そのまま大きくなったら服が破けちゃうっ!」
「えええっ?」
フェリドはティアナの言葉で慌てて自分の目を覆い……と見せかけて、指の隙間から大きくなっていくリラの姿を覗いていました。
「……大きくなるときは服も一緒に大きくなってくれるみたいね、良かったわ……」
「……チッ」
幸いにして、物語製作者の期待外れに対する舌打ちは、誰の耳にも届いていませんでした。
リラは通常のサイズに戻り、花畑を振り返りもせずに先に進みました。しばらく道なりに歩いて行くと、だんだんと辺りが薄暗くなってきました。道は、樹木が鬱蒼と生い茂る不気味な森、その奥深くへと入って行きます。あまりの不気味さに、リラも少々不安になり始めていた時でした。
「やあお嬢さん、お困りごとかな?」
突如背後の木陰から聞こえた声に、リラは身を固くしました。それから、影が動くと同時に……。
「動かないで! 半径五メートル以内に近付いたら頭を射抜くわよっ?」
「そっ、そんなぁ、リラっ! 僕は君を助けに来たチェシャ猫だよっ? 悪い奴じゃないよ? それに、そんな武闘派な主人公じゃダメだったら! 不思議の国を旅する少女のイメージを壊さないで!」
彼女は、背後から現われたフェリドに向けてどこから出したかわからない弓を番えていました。
「不審者には用心をするに限るわ……」
ギリリと弓を引き絞る音に、フェリドは震え上がります。
「いや、ほら、何もしないから? ね? 僕は君が困らないようにこの世界での作法を色々と教えてあげようと……」
「作法?」
リラは、フェリドの言葉に訝しげな視線を向けながらも、どうやら現段階では彼に害意はないと判断して、弓をしまいました。
「そうだよ、作法! この世界の住人は、全員城に住むそれはそれは恐ろしい女王様のお情けで生きているんだ。だから、女王様に挨拶に行かなきゃ!」
「……先が読めたわ……」
どうやら主人公のリラには、物語がどこに行きつこうとしているのか、大体の見当がついたようです。それから、溜息をついて歩き始めます。
「まあ、私が城に行っても特に問題はないでしょう。女王様が私が思っている通りの人ならね……」
「うっ、鋭い……」
チェシャ猫フェリドは、慌てて彼女の後を追いました。
ごめんなさい、今回では外伝を書ききることができませんでした……。もう少しだけお付き合い下さい……。
本編はただいま執筆中です。いよいよリラが精霊の子の試練に挑戦します。
……が、外伝が終わってからの投稿になります。もうしばらくお待ちください。
失礼します。