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外伝 不思議の国のリラ(製作者フェリド)1

「昔々ある所に、リラと言う名の黒髪にエメラルドの瞳のそれはそれは美しい少女がいました」

「ちょっと、あきらかに自分の趣味を反映するのやめなさいよ、フェリド!」

「はいはい、ティアナは無視して、続き続き! ……それはある日の午後、彼女が食後の読書を木陰で楽しんでいる時の出来事でした」


「うーん、本を読むのも飽きちゃったし、退屈だなぁ……」

 リラはそう言って溜息をつくと、けだるそうに手にしていた本に栞を挟んで閉じました。それから、すっくと立ち上がります。

「よし、弓の練習でもしましょう!」

 リラはそう言って弓を取りに一旦家に戻ろうとしたのですが……。

「ちょっと待って、そんな武闘派なアリス……じゃなかった、リラはダメー!」

 ……というこの物語の製作者であるフェリドのせいで、彼女は弓の練習を諦めました。

「ちっこく、ちっこくぅー!」

 次に何をしようか立ち上がったまま考えていたリラでしたが、彼女の目の前をエリゼという白うさぎが猛然と駆け抜けて行きます。その後ろ姿を見送って、リラは一言呟きました。

「……大変そうね」

「リラっ? 君がエリゼを追いかけてくれないと物語が進まないんだよっ? そんなあっさりと見送らないで追いかけてよ!」

「あら、だってあんなに急いでいるのに、用事もないのに追いかけて手間を取らせたら悪いじゃない」

「いいから追いかけて! 頼むからもう少し僕に協力してよ!」

 そう製作者フェリドに言われてしまったので、彼女は仕方なくエリゼうさぎの後を追いかけました。エリゼうさぎは、小さな穴の中に飛び込んでしまいました。

「やっほーい!」

 エリゼうさぎの声は、その小さな穴の中からひどく反響して聞こえます。どうやら、穴は見かけによらず相当な深さがあるようです。リラはその穴を覗くと……。

「帰りましょ」

 そう言って、元来た道を引き返そうとします。

「ちょっと待った! その先に行かないと不思議の国の住人である皆が出て来ないことになるじゃないか!」

「え、別にいいよ。だって、結局はフェリドに都合よく運ぶ妄想の話でしょ? それに付き合ってる位ならジュリアに御飯作ってもらった方がいいなー」

「まあ、エルリックは食いしん坊ですわね」

「いいからバカップルは黙ってて! リラ、大丈夫だよ! その穴は不思議の国に通じてるだけで、絶対に命を落としたりしないから! 僕が君を傷つけたい訳ないだろう!」

 その台詞を聞いて、リラは足を止めたもののかなり怪訝そうな表情を浮かべていました。

「……どうしてかしら。こんな状況で言われたせいか、普段なら決め台詞になるような言葉でもちっとも胸に響かないわ……」

「と言うかフェリドさん、不思議の国とか言っている時点でかなりヤバいですよね……。疲れているんですか? 今晩の見張り、代わりましょうか?」

「大丈夫だよ、アラン。ありがとう。とにかくリラ、皆にも登場して欲しいから、その穴に落っこちて!」

 リラはわざとらしく大きな溜息をつきながら、その小さな穴に身を躍らせました。やはりかなりの深さがあったようです。どこまでもどこまでも真っ暗な闇の底へ下って行く感覚に、彼女が恐れを感じ始めていた、ちょうどその時でした。急に何かに体を振りまわされるような感覚がしたと思ったら、彼女は次の瞬間には地面に見事に着地していました。

「さすがリラだね! 地面にぶつからずに着地するなんて!」

「どうでもいいから、続きは? 早くこんな茶番終わらせて休まないと、明日も早くに出発するんでしょう?」

「ううう、リラが冷たい……」

 外野からの、こんなことに付き合わされてたら冷たくもなるわよねー、なんて声を無視して、フェリドは続けます。

「残念ながら、君はそのままじゃ少し大きすぎるんだよ。不思議の国に行くには、足元の扉をくぐらなくちゃいけないんだ」

 その声に彼女が足元を見て見ると、なるほど、確かに今の彼女ではとてもくぐれないような、小さな扉があった。高さは彼女の膝程までしかないし、幅もそれと同じか、それ以下しかない。

「ちょっと、行き詰ったじゃない! どうしてくれるのよ!」

「おっ、落ちついて、リラ。怒った顔も綺麗だけど!」

 リラの凄みのある視線を向けられた気がして、フェリドはその場にいないにも関わらず震え上がりました。それから、震える声で続きを話します。

「テーブルの上に小瓶があるだろ? その薬を飲んでほしいんだ」

「気をつけて、リラ! 惚れ薬よ!」

 小瓶を手にとってすでに蓋まで開けていた彼女でしたが、怪訝そうに小瓶を見つめて、その蓋を閉めました。

「ありがとう、ティアナ。危なく騙される所だったわ」

「ちっがーう! そんなんじゃなくて、縮み薬! 薬で惚れてもらったって、何の意味もないだろっ!」

 その言葉に僅かに頬を赤くしながら、リラは薬を一口含みました。すると見る間に背が縮んで行くではありませんか。当然今まで着ていた服もサイズが合わなくなってしまい……。

「謀ったわね、フェリド! これが目的だったんでしょう!」

 リラはそう言うと、元着ていた服の袖口から真っ赤になった顔だけを出して物語の製作者に苦情を申し立てました。

「……なるほど、フェリドもなかなかの策士ね……。一本取られたわ……」

「だから、それもちっがーうっ! 全く何を言うんだティアナは! あわあわ、でも全然そんなこと考えてなかったな……どうしよう……」

「仕方ありませんわね。お姉様、今顔を出していらっしゃる袖をドレスになさってはいかがでしょう? ほら、髪を縛っていたリボンでウエストを締めれば、なかなかおしゃれだと思いますよ」

 ――数十分後。リラはようやく服を着ることが出来て、人心地ついたようです。彼女の不思議の国への旅がいよいよ始まろうとしていました。

 前回の後書きに書かせていただいたように、いきなり外伝を展開してしましました……。ふと、みんな不思議の国のアリスだったらはまるキャラクターがいるな、と思ったのがきっかけです。

 最近重い展開が続いていたので、小休止になればいいなと思います。

 本編は、外伝が終わり次第続けて行きたいと思います。申し訳ありませんが、もうしばらくお待ちください。

 ありがとうございました。

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