喧騒
「うわあ、すごい活気! ラッツィに負けないくらいすごいわ!」
そう声を上げながら、ティアナは道の左右に立ち並ぶ露店をキョロキョロと眺めていた。一行がシンナンの国に入ってから、もう三日になる。アノンワースを撃退した後は闇の勢力による邪魔もなく、リラの口数が少なくなったことを除けば、いつも通りの穏やかな日常を送っていた。
シンナンはつい先日王位の継承があったばかりで、街は祝賀ムードに溢れていた。城下町だからなおさらなのかもしれないが、おそらく、数え切れないほどの露店が所狭しとひしめき合っているのも、溢れるほど町に人々が繰り出しているのも、王位継承という慶事があったからこそなのだろう。華やいだ空気に、一行はしばし目的を忘れそうになっていた。
「……ずっと見ていたい位ですけど、行かないと。今日は全員宿屋に泊るんですよね?」
アランのその声で、全員がふと我に返る。それから、フェリドがニコリと笑ってそれに答えた。
「そうだね……。今日は全員宿屋に泊って、明日には城から迎えが来ると思うから、行ってくる。王位継承の祝福に行くって、少し前に手紙を送っておいたからね」
「まあ、さすがフェリドさん。準備万端ですね」
ジュリアがニコニコと笑ってそう言うと、フェリドは隣のエルリックからきつい視線を向けられた。
「ジュリア、僕のことは褒めてくれなくていいよ……。どこかの誰かに呪い殺されそうだから……」
まあエルリック、焼き餅ですか? なんて言いながら、ジュリアはエルリックと並んで歩き始める。それでエルリックの機嫌が治ったのを確認してから、フェリドはリラの方へ歩み寄った。途端に、彼女が体を固くする。
「なっ、何?」
「……いや、何でもないよ」
そうは言ってみたものの、あきらかに自分は彼女に避けられている……。創造神に言われたことが原因なのだろうということは、フェリドにもわかっていた。もしかすると、彼女は何かを思い出しかけているのかもしれない。そう言えば以前、石板の謳い文句である風と大地、水と炎、光と闇の調和について、掟に縛られているという趣旨の発言をしていた。彼女は、記憶の片鱗を留めているのかもしれない……。
「……あのさ、リラ?」
一定の距離を保ちながら自分に視線で何? と問いかけて来た彼女に、疑問をぶつけようとする。だが……。
「いや、やっぱりいいや。何でもない」
彼はそう言って、彼女から離れて歩いた。どちらにしろ、ここシンナンには風の聖地、飛翔の丘がある。そこに行けば、彼女だって前世の記憶を取り戻すはずだ。その時に、全てを聞けばいい。そしてそれと同時に、全てを打ち明ければいい。自分の想いも、現世での本当の名も……。
後少しの辛抱だ、という思いと賑やかな街並みが、フェリドの気分を高揚させた。
お久しぶりです。そしてお待たせいたしました。相変わらずの不定期かつのろまな更新となってしまいました。本当に申し訳ありません……。