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本来の姿

「ところで……」

 ティアナが隣で馬を走らせていたフェリドに、彼にしか聞こえないように声量を加減して話しかけた。

「結局、エリゼって誰の転生だったのかしら……?」

 彼女のその問いかけに、フェリドも思案顔になってしまう。しばらく前を見つめたまま、彼は眉根を寄せていた。

「……僕にもわからないんだ……。まあ、僕らだって全ての神々の名前と顔を知っている訳じゃない。僕たちが知らないひとだったんじゃないかな? ……ただ一つ、気になることがあるんだ」

 彼がまた険しい顔で眉根を寄せたので、ティアナはその横顔に軽く首を傾げただけで答えた。すると、フェリドの言葉が続く。

「彼女には、まるで覚醒した様子が見られないんだ。魔力の増加も見られないし、ましてや前世の記憶の片鱗も覗かせない。僕たちは皆そうだったんだ、彼女だけが違うと言うことは考えにくい……」

「……確かに。前世の記憶を取り戻してからは、魔法の強さは桁違いよね……。記憶を取り戻すのと同時に、魔力の引き出し方なんかも少しずつ思い出しているから……」

 だが、フェリドの言う通り、エリゼはその欠片も見せないのだ。試練を受ける前と何の変わりもない、いつも通り過ぎる彼女……。

「まあ、こんな平和な生活だけじゃ、せいぜい普段から滲み出ている魔力の強さだけで判断するしかないから、正確な判断とは言えないけどな……。戦闘になってみないとわからない、か……」

「やめてよ、あんたがそんなこと言ったら喜んで出て来るわよ、あの山羊角の無駄に色気があるサド女が!」

 ティアナはそんなことを一気にまくしたてて思い切り苦い顔をして見せた。

 一行は現在、この大陸での最終目的地であるシンナンに向かって馬を走らせていた。いつもと変わらない平和な時間の中で、誰もが神経を尖らせている……。そろそろ、闇の勢力からの攻撃があってもおかしくない頃合いだ。アノンワースが来るか、デスナイトが来るか、はたまたまた別の敵がやって来るかはわからないが……。

「ティアナ、そろそろ名前を覚えても良い頃なんじゃ……」

 フェリドが彼女の剣幕にたじたじになりながらも、そう答える。しかし彼女は、断固拒否、というように首を横に振った。

「嫌! あんなの、山羊角の無駄に色気があるサド女で十分よ!」

「余計に長い気がするよ、それ……」

 フェリドの呆れ顔に、ティアナはそれでも首を振り続けた。


 それから幾日か後、彼らは、シンナンの国境まで後一日という場所まで馬を走らせて、睡眠をとるために野宿をしていた。近くに川が流れているので、水の確保に困ることもなく、絶好のポイントということができた。辺りはすでに闇が立ち込め、薄い月が辛うじて世界に光をもたらしている状態だ……。

「何だか、不気味な位に静かな夜ですね……」

 ふと、リラの隣で明かりを確保するための焚火にあたっていたジュリアがそう漏らした。二人は今、見張りの役をしている。もう少し、あの薄い月が沈む頃に、ティアナとアランに交代してもらって睡眠をとる予定だった。辺りから聞こえて来るのは、仲間たちの安息の音……。

「本当ね、怖い位静か……。……!」

 そこでリラが、何かに弾かれたように勢い良く立ち上がった。その様子を見て、ジュリアが首を傾げる。

「……ジュリア、皆を起こして。おかしいわ。近くに川があるはずなのに、水のせせらぎが聞こえない……。風の音もしなくなったわ……」

 そこでジュリアもハッとして、眠りについている皆を起こしに行った。リラは体を緊張させながらも、四方を警戒する……。視界にばかり意識を取られていて、外界からの他のサインが寸断されていたことに気付かなかった……。完全に、彼女たちの落ち度だ。

「あら、意外と鈍いのね。結界を張り終わるまで気付かないなんて……」

 ブウォン、と空間が歪む音。その一瞬後に、彼女の視線の先にはアノンワースが立っていた。彼女を油断なく見据えたまま、ゆっくりと腰に佩いた剣の柄に手を伸ばす。

「フェリドのストーカーばかりしているお前と違って、忙しいからな。疲れているんだろう……」

 そう答えながら、ゆっくりと剣を引き抜く。銀色の刀身が、細い月の弱い明かりに照らされて、儚げに煌めいた。彼女のその体は、敵に一人で相対しているという恐れから、僅かに震えている……。それを見てとったのか、アノンワースは不敵に笑った。

「あら、私だっていつも坊やを追いかけてなきゃいけない程不自由している訳じゃないわ。用があるのはあなたの方よ」

 リラの細い剣の隣に、闇の中にあってもなお、その温かい光で世界を照らす剣が並んだ。フェリドの、大地の剣だ。

「へえ、僕ってお払い箱? まあ僕としても、その方がありがたいけどね。年上の女王様より、年下のお姫様の方がかわいいだろ?」

 彼はそう冗談めかして言って、リラにウィンクして見せた。この非常事態に何をふざけたことを、などとも思ったが、彼のお陰で、震えが治まったことも事実なのだ……。

「ホホホ、相変わらずの減らず口ね。面白いわ」

「あんたも相変わらず悪趣味みたいね」

 アノンワースの後に、ティアナがそう続けながらフェリドとは反対側のリラの隣に並んだ。ティアナの隣には、エリゼと彼女を庇うように立つアランの姿……。

「おばさんと同じこと考えてたなんて癪だけど、おばさんは本当に悪趣味そう!」

「……後で覚えていらっしゃい、ガキンチョ……」

 アノンワースとの戦闘の後、もうひと勝負あることをにおわせるティアナの発言に、一同は溜息をつきたくなってしまったが、そんな余裕はなくじっと眼前の敵を見つめていた。

「結界まで張って本気みたいだけど……リラさんは渡さないよ!」

 そう言って炎のやりを攻撃的に構えるエルリックの横で、ジュリアも彼に頷いて見せた。

「ホホホホホ……。あなたたち、本当に面白いわね。でも……」

 アノンワースの瞳が、ギロリと不穏に煌めく。彼女の肘から下が、見る間に鞭のような形態に変化した。そして、彼女の体が少しずつ膨張していく……。角が伸びてその大きさを増し、彼女の全身は猫のような毛に覆われて行く……。それは、人としての形をかなぐり捨てた、アノンワースの本来の姿だった。

「そろそろ、終わりにしましょう……。行くわよ!」

 アノンワースとの決戦の火蓋が、切って落とされた。

こんにちは、霜月璃音です。

相変わらず亀以下の速度での更新となってしまっています。申し訳ありません……。

しかも、乞うご期待! というようなお話の終わり方……。

できるだけ早く続きを投稿できるように、精一杯頑張ります!

ここまでお読み下さった皆様、どうもありがとうございました。

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