不毛な戦い
「よし、じゃあ、やるよ……」
次の日、悪女ジュリアに乗せられたエルリックは、創造神の神殿に火を放った。……がしかし、あまりに遠慮がちに放たれたそれは、入口の蔦を少々焦がしただけで、すぐに消えてしまった。
「あのさー、エルリック。やるならもう少し盛大に……」
さすがのフェリドも、呆れ顔で笑って見せる。その様子を見て、リラがホウ、と溜息をついた。
「そうよ、エルリック。こんなの過去の遺物に過ぎないもの。昔は神様が祀られていたのでしょうけど、今はただの廃墟になってるじゃない。恐れることはないわ」
「……」
知らないということは恐ろしいな、と思ったのは、前世の記憶を取り戻している四人。もしリラも記憶を取り戻していたのなら、仮にも元創造神の神殿に火を放つなど、恐ろしくて考えられないと言うに違いない。
「ま、まあ、エルリック。ほら、今回の場合は事情が事情だし、きっと神様も許して下さるわよ……」
ティアナはそう言いながらも顔面蒼白で苦笑いをしている。せめて顔と台詞を合わせる努力をしてくれよ、姉さん。エルリックはそう心の中で呟いて、今度こそ入口の蔦のカーテンを焼き切るだけの火力で火を放った。若干、指先が震えているが……。
ゴオゴオと燃え盛る炎……。その間に、一行の頭上に雷が落ちて来る……などということはなかった。炎の熱気の向こうから現われたのは、闇に満ちた、シンと静まりかえった荘厳な空間……。それは、この神殿が経験した悠久の時の流れというものを語りかけて来るかのようでもあった。
「あ!」
エリゼは短くそう声をあげると、一人先に中へと駆けて行ってしまった。
「待てよ、エリゼ。一人じゃ危ないだろ!」
そう言ってアランも彼女を追いかけて行き、続いてリラも神殿の中へと駆け込む。四人組は……神殿の前で道の譲り合いをしていた。
「御先にどうぞ、レディー」
「あら、どんな危険があるかわからないもの。こういう時は紳士が先に入るべきではなくて?」
「ほ、ほらジュリア、後ろは危険だから、僕が……」
「あらエルリック。私、前の方が危険だと思いますけれど……?」
四人とも、一番最初に入ろうとはしない。一瞬全員で顔を合わせてから、コクリと頷き合う。
「行くわよ、せーの! じゃんけんぽん!」
それぞれが思い思いのものを出したまま、一瞬固まる……。
「ちょっとフェリド、どうしてグーじゃないのよ?」
「いや、こういう時はいつもと違うものを出した方がいいでしょ……」
「あいこ、だね……」
「ですね……」
その後全員、ゴクリと唾を飲む。そして。
「あーいこーでしょっ!」
「またかよ……」
そうして四人は、先に神殿に入ってしまった三人の後ろ姿が見えなくなっていることにも気付かず、神殿の入り口でいつまでも不毛で地味な戦いを続けていた……。
おひさしぶりです。
長い間お待たせしてしまって、本当に申し訳ありません。そしてまだお気に入り登録をして下さっている皆様、今回このお話までお読み下さった皆様、本当にありがとうございます。風空の姫、三十四話をお届けいたします。
最近は多忙で、一日が三十時間になればいいと思う今日この頃です……。
これからも更新が遅くなってしまうことがあるとは思いますが、決して未完のまま投げ出すということはありませんので、もしよろしければ最後までお付き合い下さい。どうぞよろしくお願いいたします。