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魂の記憶

「光の、力……」

 リラは、口の中で何度もその言葉を繰り返していた。

 デスナイトを退けたあの光の障壁は、確かに彼女が作り出したものだという。確かにあの瞬間、あの男が無遠慮に伸ばして来た手を振り払いたいと思った。しかし、光の魔力を使おうとは一欠片も考えなかったのだ。ましてや、自分にその力が使えるとも思っていなかった。光の力は、魔族が最も忌み嫌うもの。それを意図せずに風の子である彼女が使いこなせたというのは、一体どういうことなのだろうか……?

「やっと宿が見えて来た。あそこに泊めてもらおうか」

 エルリックの提案に反対する者は、誰一人としていなかった。皆、デスナイトに出会った後からは走り通しで、疲れ切っていたのだ。馬を厩舎につないで、入口をくぐる。中年の男が、一行を値踏みするように眺めて来た。

「二部屋お願いします」

 フェリドの言葉に、宿の主人である中年の男は、黙って鍵を差し出した。番号札から見るに、隣同士の部屋らしい。

「部屋は階段を上がってすぐの二部屋だ。夕食は六時から九時まで。朝食はつかないが、いいか?」

「構いません、どうも」

 フェリドは軽く会釈をして、彼を待っている一行の元へ戻って来た。それから、各々自分の荷物を持って部屋に向かう。男性陣の部屋が階段側、女性陣の部屋がその奥、ということで別れた。

「……疲れた」

 リラはそう言うと、ぱたりとベッドに倒れ伏した。ティアナが苦笑しながら、口を開く。

「そりゃ疲れるわよ。慣れない力を使った後に、ここまで走り通しで来たんだもの。夕食の時間には起こしてあげるから、少し休んだら?」

「……うん、ありがとう……」

 そう彼女が返事をしてから、数瞬後。すやすやと安らかな寝息が、ティアナ、ジュリア、エリゼの耳に届く。

「……リラ、寝ちゃったね。すっごく疲れてるんだろうな……」

「それを言うなら、あなたもね。リラと一緒に起こしてあげるから、少し寝たら?」

 珍しくティアナが自分に対して掛けた優しい言葉にしばらく瞠目してから、やがてエリゼは素直に頷いた。

「任せたわよ、おばさん」

「誰がおばさんじゃあ!」

「ティアナさん、しーっ!」

 エリゼの言葉にいちいち過剰反応して見せるティアナを、ジュリアが宥める。そのまま部屋にいたら、うるさくしてリラも起こしてしまうだろうと言うことで、ジュリアとティアナの二人は部屋を出て、談話室に向かう。どうやら他の宿泊客たちは部屋にいるらしく、誰もいない談話室で二人がくつろいでいると、フェリドとエルリックが現われた。

「アランは?」

「食料の確認を頼んだよ。……僕たちの話に、巻き込む訳にはいかない」

 ティアナの言葉にフェリドが答えた後で、四人の顔が暗くなる。彼らの議題は言うまでもなく、なぜリラに光の力が使えたか、だ。

「リラ、かなり消耗してるわ。光の力を使った反動だと思うけど……」

「ああ。そうだろうな……。でもあの力は、間違いなく彼女の中から発せられたものだ。光の波動に、僅かに風の波動が混ざっていた……」

 眉を寄せて真剣な表情で考え込む二人に、ジュリアが声をかける。

「……あの、本当にあり得ないことなんでしょうか。私たちが、本来自分が持ちえないはずの、別の魔力を使うということは……」

 エルリックが、溜息混じりに口を開く。

「少なくとも、相対する魔力を使うのは無理なんじゃないかな。自分が本来持っている魔力と、使おうとする魔力がお互いに共鳴して、莫大な力を生み出すだろうからね。人間の体じゃあ、とても耐えきれないと思うよ」

「確かに、エルリックの言う通りだな……」

 そこでフェリドは一度、溜息をついた。しばらく沈黙が流れてから、また彼が口を開く。

「……とりあえず、今回リラが使ったのは大地の力ではなく光の力だった。だが、たとえ理論的には別の魔力を使うことが可能だったとしても、何の修練もなしにその力を使うことなんてできないんじゃないか? 元々僕たちの魔力は、光の神族だった時に持っていた力が魂に記憶されていて、そこから力を引き出しているはずだ。……力を使った時の感覚で僕はそう思ったんだけど、皆は?」

 黙ったまま三者が三様頷いて見せる様子を眺めてから、フェリドがさらに口を開く。

「だから僕たちは、自分が属していた部族の精霊の子として転生している。だがリラはまだ、覚醒もしていない。記憶の戻っていない状態で力を使っているから、あまり莫大な力は使えないはずだ。それなのに別の魔力まで使ったんだから、消耗するのは当然だと思う。だけど……」

「どうしてそんな状態で、修練してもいない光の力を引き出せたのか。結局、議論はそこに戻るんでしょ?」

 ティアナが溜息混じりに吐き出した言葉に、フェリドが強く頷いて見せる。ジュリアが細い息とともに、ポツリと言葉を口の端から漏らした。

「……これも、魂の記憶、でしょうか……」

 他の三人の視線が、一斉に彼女に向けられる。黙ってその視線を受けてから、彼女は再び口を開いた。

「……お姉様の、風空の姫としての魂のどこかに植えつけられた、力の記憶……。それが、あの窮地に現われたのではないでしょうか……? 確証はありません。ただ、お姉様が風空の姫として生きた時代になんらかの形で光の力を得ていれば、それも可能なはずです。ましてや、記憶がないからこそ引き出せた力なのかもしれません。風空の姫としても記憶がない程、昔に植えつけられた力なのかもしれません……」

「本当に、生まれる前、ってことだね……」

 ジュリアの言葉を引き取って、エルリックが結論部分だけを言う。ジュリアがコクリと頷いてからしばらく、四人は何の反応も見せずに固まっていた。

「全ては、僕らの生まれる前にあるということか……」

 グッと、拳を握る。原因も解明できないまま彼女の状態を放置しておいていいものなのか、彼はとても不安だった。そして、これ以上の結論を出せない自分が、歯痒い……。

「くそっ……!」

 どうしようもない苛立ちをフェリドに感じさせながら、時はゆっくりと流れて行った。

こんにちは、霜月璃音です。

またまた久々の更新となってしまい、申し訳ありません。

早くも三十話目で、少々動揺しております。

本編はまだまだ、やっと謎が見えて来たところです。これからもどうぞお付き合い下さいませ。

ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございました。

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