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舞姫の逃走

『とりあえず、何とか引っかかってくれそうね……。』

リラはそんなことを考えながら、音楽に合わせて軽快なステップを踏んでいた。踊り子として旅芸人一座に加わることに成功した彼女は、今、輪舞の輪から召し上げられて、王宮の広間で舞っていた。その様子は、染めた髪のせいで銀色の蝶のようだ。彼女の舞う様に合わせて揺れる銀の髪は、蝶の翅と鱗粉、その二つを同時に表現していた。そしてアーク王は、まんまと彼女と言う花に魅了されている。計画が思い通りに運んでいるのに、少しも面白くないのはなぜだろう。フェリドは、広間の中央を舞う銀の蝶を眺めながらふとそう思った。

「あら?その顔は……。目の保養になると思って派手な衣装を着せたけど、他の男の視線が気になるなー、銀髪が光を受けてキラキラと綺麗だけど、やっぱり僕は黒髪の方がかわいらしくて好みだなー、って顔ね!」

一体どんな顔だよ、と思いながらも、自分の考えていたことが全て当てられてしまったことに動揺して、フェリドは青くなった。

「誰かと思えば、君か……。」

「ホホホ、文句でも言いたげな顔ね。でも、私に逆らおうなんて百万年早いわよ!」

「……いえ、そんなつもりは……。」

フェリドが呆れてたじたじになっているにも関わらず、ティアナは急に真面目な顔になった。

「あの子だって、本当はこんなことしたくなかったのよ。だけど、あなたが最善の策だって言ったし、一番危険が少ないなら、ってこの方法を選んだの。つまり、あなたが言いだしたことだからこの作戦も引き受けたって訳。……どういう意味かわかるでしょ?」

「……。」

その言葉には答えず、フェリドは黙って舞姫を見つめた。

「大事にしてあげなさいよ。人一倍優しくって、傷つきやすい子なんだから。まあ、私よりもあなたの方がよく知ってるでしょうけど。」

ティアナはそれだけ言って離れて行ってしまった。緑の瞳の乙女を見つめる、青紫の瞳。そこに宿る光の色が微妙に変化したことには、おそらく誰も気付いていない。


リラは今、王の寝室に向かって女官の一人に連れられて歩いていた。王の寝室は、西側の二階。フェリドたちとの打ち合わせで行くと、彼女はそこから飛び降りて脱出することになっていた。

『ここまでは作戦通り、順調だわ。問題は、この先……。』

彼女の任務は、アーク王に催眠術をかけ、真実を問うこと。

『ちゃんとできるかしら……。ううん、やらないと!』

リラは恐れと不安を掻き消すように頭を小さく、何度も振った。

「こちらが国王陛下の寝室です。くれぐれも、粗相のないように。」

そう言って女官は暗い廊下を戻って行った。その足音が遠ざかるのを確認してから、王の寝室、その豪華な扉に手をかける。

カチャリ。リラは、必要以上に静かに戸を開けた。

「来たか、銀の蝶。さあ、こちらへ。」

そう言って王は寝台に腰掛けると、彼女を誘うように両腕を広げた。リラは、その腕の中に静かに身を寄せた。緊張が、彼女の全身を駆ける。それは震えとなって、アーク王にも悟られてしまった。

「どうした?震えているのか?さて、まずは先程の舞の褒美を与えなければならないな……。さあ、何が望みだ?明日の朝までに用意させよう。」

リラはそこでアーク王を見上げた。震えるエメラルドの瞳は、覗きこむ者に快美な戦慄を与える。

「では陛下、一つ質問をさせて下さいませ。」

「何なりと。」

王がリラの鈴を鳴らすような甘く柔らかい声に聞き惚れたその瞬間、催眠術をかける隙が生まれた。もちろん、リラはそれを見逃さなかった。陽炎のように揺らめいていた影は身を顰め、エメラルドの瞳が鮮烈な光を放つ。その瞬間、アーク王の瞳から光が消え去り、彼は完全に無防備な状態となった。

「この国に、精霊の子はいませんか?隠さずにお教え下さい。」

「い、いない……。精霊の子は、一人も……。」

中年の王は、操られるままにそう答えた。完全にリラの催眠術に精神を絡め取られているのだから、嘘をつけるはずもない。どうやら、本当にこの国に精霊の子はいないらしい。その事実に落胆して深く溜息をついてから、リラは気を取り直した。そうとわかれば長居は無用、一刻も早くここから脱出しなければ。

「そうですか、ありがとうございました。朝までぐっすりお眠り下さい。朝には、私のことなどさっぱり忘れていらっしゃいますから。お休みなさいませ。」

彼女のその言葉を合図に、王は寝台に転がり、寝息を立て始めた。リラはその様子を確認してから立ち上がり、静かに窓を開け放って、下を確認した。

「お姉様、こちらですわ。」

ジュリアの声がした方を向くと、ちょうど皆が駆けつけて来たところだった。

「リラ、飛び降りろ!受け止めるから!」

彼がそう言うのなら、リラが迷うはずもない。彼女は力強く頷いて見せると、石の窓枠に足をかけてひらりと飛び降りた。銀色の蝶が、夜も更けた砂漠の空を舞う。フワリ、と優しく力強い腕が彼女を抱きとめた。そのまま地面に下ろされるだろうと考えていた彼女の体が、ふと強く拘束される。

「ちょ、ちょっとフェリドっ?」

「後にしなさい、フェリド!逃げるのが先よ!」

皆で走りだしたのだが、リラはそれに出遅れてしまった。

「ま、待って!裾が、絡まってっ!」

「ちょっと、何よそのずるずるのくせにいやらしい服ー!でも、さすがはリラね。ちゃんと着こなせてるわ。」

「そういう問題じゃない!」

ティアナの言葉通り、女官に着替えようだと言われて渡された衣装は、裾の方はやたらと長くてひらひらとしているドレスでありながら、肩はむき出しになると言うデザインのものだった。当然、全速力で走れるような代物ではない。ティアナの他人事としか思えないような言葉に、リラは情けない声を上げた。そんな彼女の体が、ふわりと浮きあがる。

「仕方ないな、じっとしてろよ!」

フェリドはリラを軽々と抱き上げ、先程と同じ速度で走る。

「ちょ、ちょっとフェリド?」

彼のその行動に、リラの心臓の鼓動が、不自然に高鳴る。耳元でうるさいそれが彼に気付かれないことを、リラはずっと祈っていた。

長らくお待たせいたしました。第二十七話、いかがでしたか?

思い通りに執筆活動が続けられていないのですが、少しでも楽しんでいただけるように頑張りたいと思います。

ここまでありがとうございました。

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